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2020.12.22

~本当に活用できるCJMとは?~

#UXデザイン#カスタマージャーニーマップ#コラム#ナレッジ・ノウハウ

川野 義則 川野 義則

「ユーザー視点」を重視したマーケティング施策の実行を目指し、ユーザーの行動や思考を可視化するカスタマージャーニーマップ(以下CJM)はUXデザイナーだけではなくマーケターやエンジニアにも活用される有名な手法となりました。近年では一概に「CJM」といっても活用する目的に応じて、可視化する粒度や項目も大きく変化・進化してきています。

一方で「作成したが、作ることが目的になってしまっていた」、「活用方法が不明瞭」、「結局作っても効果がなかったので以後作られなくなった」といった話は現在でもよく聞きます。そこで、改めてCJMを作成する目的と、実際に作成する際の注意点を紹介します。

CJMを作る目的とは?

ユーザーがシステムや機能に慣れることを強いるのではなく、ユーザーが欲しいと思っていることが何であるかを中心としてインタフェースを最適化すべきというHCD(Human Centered Design) / UXD(User Experience Design)の考え方の根底には「ユーザーは提供側の意図した通りに必ずしも行動するわけではない」という事実があります。

提供者側の狙い通りに行動してもらうためには、ユーザーの実態や潜在的なニーズ(インサイト)を捉えてサービスやプロダクトの一連の体験を最適化することが重要です。

一連の体験を描くためには、ひとつの接点や施策といった「点の体験」ではなく、ユーザーと企業・サービスの接点、行動、思考などが有機的に繋がったストーリーとして顧客体験(線の体験)を捉える必要があります。

そんな「線の体験」を実現するために、現状(As-Is)の体験を把握し、あるべき姿(To-Be)を想像することが求められ、ユーザーの行動や思考の流れを可視化するツールとして、CJMが使われています。

CJM作成の効果は?

ではなぜ、ユーザーの行動を可視化するために、他の方法ではなくCJMが多く用いられているのでしょうか?その理由としては、ユーザー体験の可視化に加えて以下の3つの効果があるからだと考えられます。

効果1: 自社課題の明確化

CJMは、ターゲットペルソナ(実在する人物のようにユーザーの特徴を設定した、価値を提供したいユーザー像のこと。チーム全体で認識を統一することができる)が自社の商品・サービスに関心を持ち購買に至るまで、または購入後の継続的なコミュニケーションも含めた行動や思考を時系列に沿って具体的なジャーニー(ストーリー)に落としこみ、ユーザーの心理状態と行動をわかりやすくするものです。

ユーザーの行動や思考をステップごとに可視化することで、どのポイントで不便や不満を感じているのかを明らかにし、自社の課題を明確にすることができます。

効果2: 施策実施の検討・優先順位づけ

事業会社のマーケティング担当者は、広告運用やメルマガ配信、コンテンツ制作といったデジタル施策から、イベントのようなリアル施策まで、最も成果が出るマーケティング施策を検討することが求められます。そういった際に、自社課題からコンテンツプランやアクションプランを立案することができます。また課題の重要度に応じて実施施策の優先順位づけをする際にもCJMは役立ちます。

効果3: 共通認識の醸成による社内連携の強化

マーケティング施策を実行するには、マーケティング部門だけでなく、営業や開発など様々な部署の担当者が関わっていくことになります。このように、部署間を越えた複数の関係者が関わるプロジェクトでは、関係者間の共通認識を揃えておくことが大切になります。

CJMを作成することで、最終的な購買に至るまでの顧客の行動や感情の変化を、目に見える形で関係者と共有することができるため、プロジェクトに関わる関係者全員の認識を揃え、共通の判断軸を持つことができます。

CJM作成中に失敗しがちな3つのポイント

CJMを作成する企業が増える一方で、

「CJMを作成したのは良いけれど、その後どうしたら良いのかがわからない」
「CJM作っても効果がなかった」

という声があるのも事実です。

どうしてそういったことが起こるのか?その主な原因を3つ挙げていきます。

1. 明確な目的・ファクトなしのCJM

CJMを作る!と思っても、目的や活用方法を明確にし、ユーザーの実態を明らかにしたファクトデータがない状態で作成しても、それは「ユーザー体験を可視化」したとは言えないと考えます。それは一個人、または作成に携わった人の『妄想』に近いCJMとなってしまいます。

もちろんスモールスタートとして仮説を中心に作ってみることは大事ですが、そこで止まらずに、ファクトを集めることを怠ってはいけないと考えます。

2. 「ユーザー行動ファースト」ではなく「実施施策ファースト」になってしまっている

顧客を理解する際の視点として、Inside-Out(企業視点の活動)で捉えるか、Outside-In(顧客視点の活動)を捉えるかにより、可視化できる範囲が異なります。

ユーザーは、企業の意図に構わず自由な行動をします。

CJMとは、その「自由な行動」を可視化するための手段であり、企業の実施施策がすべてマッピングされている状態のものを作成したとしても、それは的確にユーザーのことを捉えているとは言い難いです。CMを見て、Web広告を見て、自社サイトのみで情報収集をし、情報を逃すまいとSNSの公式アカウントをフォローする・・・。このような流れをキレイに辿るユーザーは果たしてどのくらいいるのでしょうか?

例えるなら、企業が提供している『パッケージ旅行」の動向を探るのではなく、『フリープラン』で「どこに」「どの順番で」「何をきっかけに」訪れたのかを探る。それがCJMです。

自社で持っているコンタクト・ポイントを全て記載し、自社でできることを(無理矢理)繋ぎ合わせるInside-Out型の可視化では限定的になってしまうため、Outside-In型であくまでも顧客がどのように動いたかを自社がカバーできない範囲まで描くことが重要です。

3. 一度作って終わりになっている

企業の中には、様々な事情からCJMを作るためのリソースが割けず「◯年前に作成したターゲットユーザーのCJMを基に今期の施策を策定し・・・」といった古いCJMをそのまま使うケースが見受けられます。

昨年と今年で(コロナの影響は少なからずありますが)ユーザーの行動は大きく変化しています。ユーザーの行動が変化しているということは、その行動の背景にある思考や感情も変化していることを表します。

また、企業を取り巻く市場環境も大きく変化しています。その中で「◯年前」のCJMを信じきって施策を策定することは、ユーザーに受け入れられない可能性が高まってしまいます。

有効活用するために・・・CJM作成のチェックポイント

では、CJMを有効活用するためには、先程上げたポイントをいかに変えていくべきなのでしょうか?

1. 目的に沿ったインプット・調査により情報を整理

「みんながCJMを作っているから私達も作ろう」

こうした理由から作られたCJMは、残念ながら上手く活用されているケースが少ないと感じています。
なぜなら、CJMにも作る粒度があり、目的がはっきりしていない場合はその粒度が曖昧なまま進んでしまうことが多くあります。

  • 何を達成するために、CJMを作成するのか(ビジネスゴール)
  • そのCJMはこの後どのように使われるのか(何を明らかにしていれば良いのか)

を明確にした上でCJMを描くべきだと考えます。もしかしたら、CJMよりも適した可視化の方法があるかもしれません。

また、作成のために必要なデータも、目的により大きく異なります。調査を実施し、追加でファクトを集める必要がある場合もあります。

2. 使われなかった事実も受け入れ、理由を深掘り課題を明らかにする

計画した取組がすべて上手くいく、ということは稀なことです。野球でも、サッカーでも、相撲でも、優勝するチームや選手でも負け≒うまくいかないことは必ずあります。実施した結果について、できるだけ正確なインプットを得ることで、現状(As-Is)を可視化する際にうまくいっていないこと(課題)を明らかにして、関係者と議論しながらその理由を深掘り、改善することを目指すべきだと考えます。

3. CJMは常にアップデートされるもの

一度作って終わりではなく、実際に施策を実行する中で、CJMを再度チェックし、特にプロセスやコンタクト・ポイントが現在のユーザーの動きにマッチしているかを検証しアップデートを重ねることを推奨します。

使われないCJM作りはもうやめよう!

冒頭の通り、CJMを作った経験がある方はこの記事をご覧の方の中でも数多くいらっしゃると思いますが、ユーザー理解の拠り所として継続して有効活用されている企業はまだ少数にとどまっている現状であると、複数の企業の方と会話させていただいている中で感じています。何事にも準備と計画が重要であるように、CJMを作る上でもこれらのことを改めて意識するだけで、関係者の納得度や、目的達成への確度は変わってくると実感しています。

多くの方がこれらの点を理解した上でCJMを作成し、成果へ繋がるCJM活用がさらに広まっていくこと期待しています。

川野 義則

川野 義則

CX/UXデザイン事業部

IT系市場調査会社、デジタルマーケティング支援会社等を経て、電通デジタル入社。通信、製薬、金融・保険、消費財メーカーを中心に、定量/定性問わずUXリサーチ(設計・実行・分析)およびワークショップ設計・ファシリテーション、策定プランの体験設計・実行コンサルティング業務に従事。 HCD-Net認定 人間中心設計専門家。

※所属は記事公開当時のものです。

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