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2021.07.30

ニューノーマルにおける業界別トレンド#5【リテール】~CES2021より~

#イノベーション#グローバルトレンド#セミナーレポート

宋賢珠 宋賢珠

#1の記事(リンク)、#2の記事(リンク)、#3の記事(リンク)#4の記事(リンク)に引き続き、今回はリテール業界における今後のトレンドを紹介していきます。

サマリー(リテール)

今年のCESの特徴の一つとして、基調講演に初めてリテール業界のリーダーが登場したことが挙げられます。世界最大の家電・技術見本市と呼ばれているCESの基調講演に登壇してきたのは、今まではマイクロソフトやインテル、ベライゾン、サムスンのような大手IT、通信企業や家電メーカーの代表者たちでした。

それが今年、世界最大のリテール企業であるウォルマート(Walmart)、家電量販店ベスト・バイ(BestBuy)のそれぞれのCEOがリストアップされたのです。

CES基調講演で大手リテール2社が登場した背景

その背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大によるリテール業界のドラスティックな変化があります。人との接触を恐れ、都市または国家単位のロックダウンを余儀なくされる等、日常生活が厳しく制限される中、人々の購買スタイルが大きく変化し、リテール業界はその変化に追いつくべく、デジタル、通信技術を導入し新たな顧客接点を構築しようとしてきました。事業に取り入れてきました。

DXによる早急な事業変革の可否で業界の明暗が分かれる状況の中、勝ち組となった2社の話に耳を傾けると、華々しい遠い未来ではなく差し迫った今を生き残るために、テクノロジーを使って何ができるか、テクノロジーとどう向き合うか、という問いが今年のCESの重要なテーマだったのではないかと考えます。

ウォルマート、ベスト・バイのCEOは何を語ったか

当初、感染拡大抑制に向け外出制限措置等の影響で業績悪化が予想されていたウォルマートは、2020年11月に発表した8~10月期の決算で、売上高5%増、純利益が前年同期比56%増の好成績を発表しました。同じ時期、ニーマン・マーカス、スタイン・マート等の米国の有名小売り企業が相次いで破産申請をしていたこととは対照的な結果です。

ウォルマートのCEO、ダグ・マクミロン(Doug McMillon)氏は、この前代未聞の状況で参考になるような過去の事例はなく、数週間は混沌としていたものの、従業員の安全やサプライチェーンの維持など優先順位を決め、実行に移したといいます。また好調要因については、ネット経由の販売が前年比79%に増加したことを取り上げ、新型コロナウイルス感染症の流行で急増したEC需要に早急に対応できたことを強調しつつ、ネット経由で購入したものを配送を待たず実店舗でピックアップ(Store pickup or Curbside shopping )する割合が高いことを説明し、オンラインとオフライン店舗のハイブリッド戦略が売り上げの底上げに寄与したと語りました。

ベストバイのコリー・バリー(Corie Barry)CEOも、自社の2020年3Qの実績でオンラインの売り上げが全体の35.6%までに上った(2019年15.6%)とオンラインシフトの傾向を挙げつつも、ベストバイ社は感染が拡大した直後の2020年3月にはすでに商品を店頭の駐車場で受け取るカーブサイドピックアップ(Curbside picking)を導入していて、2020年のオンライン販売の40%がオフライン店舗でのピックアップだったことを振り返り、「オフライン店舗は、フルフィルメントのエピセンター(Epicenter、最重要ポイント)である」とオフライン店舗の重要性を強調しました。

顧客がどこにいようが、顧客が望む時間と場所、形で支払いしてもらい商品をお届けする、といったことがこれからのリテールインフラに求められると思います。

非対面、非接触、その先

個別展示においても新型コロナウイルス感染症の影響は大きく、E-Commerce、接客ロボティックス、VR/AR、決済システムや配送のための電気自動車、ドローンなど、非対面、非接触の買い物をフロントとバッグで支える技術、サービスが数多く出品されました。

ここでは、代表的な例として米国カリフォルニア州を基点とするスタンダード・コグニション(Standard Cognition)社のAIカメラによる自動決済技術を紹介します。

動画:Standard Cognition社HPに掲載されたシステム説明動画

スタンダード・コグニション社は、AIカメラやマシンビジョンの技術を組み合わせ店内の客の動きと商品を検知し紐づけることで店外に持ち出された商品だけを自動課金するシステム(AI-Powered Autonomous Checkout system)を提供しています。お客さんはお店に入って自分のIDをリーダーに一度読ませれば、あとは欲しいものを手に取ってそのままお店を出るだけ。請求はメールで届きます。

このシステムが導入されたお店で客は店員と接触することなく、また、列に並び商品のスキャンや支払いのために立ち止まることなく買い物を済ませることができ、入店から買い物を完了するまで最短でわずか2.3秒との記録を当社は発表しています。

CX分野では近年、「フリクションレス(frictionless、摩擦のない)」というキーワードが注目されていますが、購買チャネルの設計にあたりオンラインとオフラインで顧客接点を設けるだけではなく、それぞれの接点を顧客がストレス(摩擦)なく行き来できる状態にすることが重要であるという考え方です。

スタンダード・コグニション社のシステムは、入店から決済までの一連の流れが直観的でわかりやすく、無駄な操作を最大限省くことで、お客さんに心地良いフリクションレスな体験を提供する例になると思います。

(イメージ画像)
(イメージ画像)

このようなレジレスの試みは「Amazon Go」等でもありましたが、彼らの技術の注目すべきもう一つのポイントは、既存の小売店舗に迅速かつ簡単に導入できる点です。

「Amazon Go」は天井に100台以上のカメラを設置し、棚にも数千個のセンサーを埋める必要がありますが、当社は店舗に設置するセンサーの数を50個未満にし、導入にあたり店舗のレイアウトや照明などを変更する必要がない、導入後のメンテナンス頻度を減らす等お店側の負荷を下げ、スケーラビリティのある技術を目指しています。新型コロナウイルス感染症の流行真っ只中だった去年8月、米国のサークルK店舗へのシステム導入が発表されたのはまさにその成果と言えるでしょう。

おわりに

全5編の記事では、CESの内容を元にニューノーマルにおける各業界のトレンドについて、UX目線での考察を交えてお届けしました。

今年のCESは今までにない未来を想起させるような目新しい技術や展示は少なかったかもしれないですが、生活を支える身近な技術、早期に実用化できる技術、そのために必要な組織や体制に関するヒント等が多く散りばめられ、パンデミックで当たり前だった日常が維持できなくなった今の時代ならではの展示になったのではないかと思います。

コロナウイルス収束の兆しはいまだ見えてないですが、困難に立ち向かう技術者、企業の葛藤が収束後の社会をより豊かにすることに希望を持ち、来年のCES🄬でその成果が見られることを期待したいと思います。

ニューノーマルにおける各業界のトレンドが、これからの顧客体験を考えるみなさまにとって参考になれば幸いです。

宋賢珠

宋賢珠

株式会社電通 データマーケティングセンター

2009年、株式会社電通入社。国内外のweb広告メディアにおける広告商品開発から一般事業社のwebサービス開発・構築まで、デジタル、データを主軸にする業務に幅広く従事。

※所属は記事公開当時のものです。

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