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2022.10.19

ニューリテールの雄「盒馬(フーマー)」が生花販売に進出したわけ 

#イノベーション#グローバルトレンド#ケーススタディ

noimage 松果財経

こちらの記事はwoshipm.comに2021年12月13日に公開された記事の翻訳記事です。原作者:松果財経

原文リンク

「花束は時代遅れになりません。」 

花を買って生けることは、もはや記念日などの特別な日の習慣だけではなく、今やわたしたちの日常の嗜好になりつつあります。また、わたしたちの疲れを取る最高の癒しにもなっています。 

花を売る人もかつての道端の露店にとどまらず、街の花屋として店を構えるようになってきています。「魔都」と言われる上海では、24時間営業のローソンに値札をつけた小さな花束が並べられ始めました。広州と深センでは、朝夕通勤する地下鉄の駅構内にいつの間にか生花の自動販売機が出現しています。フーマー・フレッシュ(中国名:盒馬鮮生、以下「盒馬(フーマー)」)では、生鮮市場を彩るフーマー・ガーデン(中国名:盒馬花園)なるものが登場しています。 

多くの生鮮食品の小売企業が生花を売り始め、叮咚(DingDong)、美団、盒馬(フーマー)が続々と参入してきました。このように生花市場の競争では、多くの業界を越えたプレイヤーたちの熱き戦いが繰り広げられています。盒馬の生花市場への参入は、一体何をもたらすのでしょうか? 

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アリババが脚光を浴びる中での「盒馬(フーマー)」の発展の歴史

アリババグループというバックグランドを持つ盒馬(フーマー)は誕生してすぐにその先進性に注目が集まりました。 

アリババ内部で2年以上の準備期間を経て、馬雲(ジャック・マー)自ら店舗へ訪れたこともあり、そしてアリババ「動物園」(訳者注釈:アリババが展開しているサービスが動物で表されることが多く、動物園と言われている。例:盒馬(フーマー)→カバ、天猫(T-mall)→猫、閑魚(シェンユー)→魚、飛(フリギー)→豚。)の最新のメンバーとして、盒馬(フーマー)は一躍脚光を浴びました。 

盒馬(フーマー)はアリババがオフライン・スーパーマーケットを完全に再構築した新しい小売業態です。winshang.com(注釈1)のレポートによると、盒馬(フーマー)は2020年現在、フーマーフレッシュ、フーマーmini、箱小馬、フーマーXメンバーズセレクト、フーマー菜市、フーマー焙煎など、業態が拡大しています。設立から6年も経たないうちに盒馬(フーマー)は、「四不象」(注釈2)的な珍獣から新しい小売業の模範にまで成長したのです。 

新小売業態の発展の過程において、生鮮は粗利こそ少ないものの、高い利用頻度やリピート率、そして大きな市場規模があるため、各企業がしのぎを削る分野となりました。盒馬(フーマー)は多岐に渡る業態を展開していたことで、生鮮ECの分野での厳しい競争環境を通し、豊富なノウハウと経験を蓄積してきました。 

盒馬(フーマー)の参入は比較的早かったため、早期に「海外からの直接仕入れ」+「現地からの直接仕入れ」+「自社ブランド」を結合した仕入れモデルを構築し、仕入れコストを下げることができています。さらに一部の生鮮は「雲超」「天猫」と共同仕入れを行うなどして、スケールメリットと商品の回転率を向上させることにも成功しています。2021年5月現在、フーマーフレッシュは全国で約220店に達しています。 

こうして盒馬(フーマー)の発展の歴史を振り返ると、フーマーフレッシュのビジネスモデルは多種多様な業態の中でも最も成功しているモデルであり、現在はすでに、スーパー、飲食、野菜市場、配送物流を一体化した新しい小売システムを構築しているのがわかります。 

また、盒馬(フーマー)は非常に高いユーザーロイヤリティーと驚くべきコンバージョン率を誇っています。侯毅氏(盒馬CEO)によると、オンライン注文の割合は全注文の50%を超え、半年以上営業し多くの固定客を抱える店舗に至っては70%にも達しています。そしてオンライン商品のコンバージョン率は35%に達し、伝統的なECサービスのそれをはるかに上回っているのです。 

このように盒馬(フーマー)が短期間で発展できたのは、膨大なビッグデータ、モバイル通信、インテリジェントIoT、自動化などの技術と先進設備を持つことで、人・物・場所の三者間での最適なマッチングを実現することができたためです。さらにサプライチェーンや倉庫から配送まで完全独自の物流システムを構築し、競合他社を圧倒する強靭な砦を築きました。 

しかし、盒馬(フーマー)の野望は止まることはなく、今もなお新しい事業を拡大し続けており、目下の重点政策は「フーマー・ガーデン(盒馬花園)」なのです。 

盒馬(フーマー)は、世界最大の生花のサプライヤーである昆明国際花卉オークション取引センターと戦略的な提携を行い、中国最大の生花リテーラーになるべく、盒馬生花サプライチェーン会社の設立を計画していると発表しています。 

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生鮮食品の大物も生花マーケットへ参画? 

盒馬(フーマー)は、世界最大の生花のサプライヤーである昆明国際花卉オークション取引センターと戦略的な提携を行い、中国最大の生花リテーラーになるべく、盒馬(フーマー)生花サプライチェーン会社の設立を計画していると発表しています。 

近年中国では「ウーマン・エコノミー」の進展に伴い、生花の需要は今まさに劇的に増加しています。 

商務部(注釈3)が発表した「中国オークション業界発展報告2019」によると、2019年に中国では、1人当たり年間10本の生花を消費し、2016年には0.36ユーロだった1人当たりの生花消費金額も5ユーロ前後になりました。多くの消費者が、日常的に生花を購入して、家に飾り、自分の気持ちをリラックスさせるようになります。 

このような新しい消費傾向の中で、生花市場全体のエコシステムは次第に伝統的なオフライン店から軽量化、便利化、日常化へと向かっており、新しい流通ルートと新しい業態の開拓によって、生花市場は今、爆発的な発展を迎えているのです。 

資金が集まるところで、「花加」や「花点時間」などのいくつかの生花のEコマースのプレイヤーが出現してきました。彼らは数年を費やし、サブスクリプションのビジネスモデルで「花の日常的な購買」を人々に習慣づけました。 

しかしながら、たとえビジネスのロジックははっきりしても、サプライチェーンと流通ルートに弱点を抱えているため、これら生花のECは品質とサービスにおいて消費者から非難を浴びています。 

同時に、ビジネスモデルが予定通りに通りには構築できず、赤字となり、サービス自体が一気に崩れ落ちてしまいました。サービス自体が一気に崩れ落ちることになりました。公開データによると、「愛尚花」の2014〜2016年の累計損失は4000万元近くにのぼり、2017年には赤字は縮小したものの、経営キャッシュフローはマイナス続きで、最後は上場廃止となってしまいました。 

当初生花におけるECサービスは一時的に爆発的な人気になったものの、口コミと赤字の二重の打撃によって、最終的には下火となってしまいました。 

幸いなことに、消費者の生花に対する需要はその影響を受けず、近年はかえって増加傾向にあります。 

生花市場に空白ができた状況で、生花ECサービスと類似する仕組みを持ち、消費者に受け入れられ、成熟したサプライチェーンを持つ生鮮ECサービスは、この生花ビジネスを虎視眈々と狙っていたのです。 

盒馬(フーマー)は国内最大の生鮮ECサービスとしてこの機会を逃すはずがありません。2021年5月、盒馬(フーマー)は傘下の生花ビジネスを独立ブランドとし、「フーマー・ガーデン(盒馬花園)」プロジェクトを設立しました。多くの疑問の声を背負っての参入でしたが、盒馬がこの市場に挑戦する実力があることに疑う余地はありませんでした。 

生花の市場によりスムーズに参入していくための盒馬(フーマー)の最初のステップは、サプライチェーンの再編でした。 

生産側では、自らの生鮮品で培った契約農業という方式を用い、上流の生産者と長期契約して、生産者に発注します。生産者にとってこの方式は、安定した流通ルートが保証され、販路と在庫問題を解決することができます。そして同時に、より豊富な種類の生花を流通することができたのでした。 

サプライチェーンにおいては、中国昆明市にある生花の産地に物流センターを創立し、生花の標準、選別、輸送などの標準化を徹底しました。そうした製品面での直接的なコントロールを通じて、生花の品質の保証のみならず、「地元から抜け出せない」という地方農家の悩みをも解決したのでした。 

販売側においては、現在独特のオンライン・オフラインの2つの経路を持つ新しい小売モデルを形成しています。オフラインで生花を実際に見ることができ、オンラインで購入すると最短30分で家に届くなど、消費者の生花購入時の利便性を追及しました。盒馬(フーマー)がもつ全国数百軒ものリアル店舗の優位性を活用し、オンラインとオフライン一体型の「身近な花市」を築き上げ、フーマー・ガーデン(盒馬花園)が直接消費者と接することができる機能を確保するようにしています。 

またそれだけでなく、盒馬(フーマー)の既存のユーザー層に紐づくビッグデータとマーケティングプラットフォームを結合することで、フーマー・ガーデン(盒馬花園)に多くの利用者を集めることができました。ユーザーの多くは、アプリのカート内への商品の選択が完了すると、注文ページに生花単品のプロモーションメッセージが表示されます。表示される生花はいずれも単品がメインで、価格は9.9元〜39元とまちまちで、単価が低いことも一定のプロモーション効果を発揮しました。 

これらにより、盒馬(フーマー)は生花ECサービスを実装し、その恵まれた資源の優位性に立って、新しい事業セグメントを開拓し、生花業界の新たな発展をリードすることとなったのです。 

盒馬(フーマー)のこの一連の戦略は、生花の市場に新しい考え方をもたらしはしましたが、果たして盒馬(フーマー)は今後うまく「花の咲く道」を歩み続けることができるでしょうか? 

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イバラだらけの花道、盒馬(フーマー)の想像力はいかに 

よく知られているように、生花の商売は簡単ではありませんし、きめ細やかな配慮が求められるビジネスです。 

まず、要のサプライチェーンの難しさがあります。生花は腐りやすいため日持ちが短く、保湿保温に気を使う必要があり、生産フローの標準化のレベルが低いなどの特徴があります。それゆえ、売り手がサプライチェーン全体の運営効率を厳格にコントロールしなければならないことは、生花市場に参入するプレイヤーにとって間違いなく参入障壁となっています。 

次に、生花自体の栽培コストは比較的低いのですが、輸送条件が厳しいため、それぞれの仲介業者が値をつり上げてしまい、最終的な消費者価格が高くなってしまいます。これも花の粗利率が高い理由なのです。 

同時に、現在の生花は創業者自らが店を開く「家族経営」が多く、大抵は全国的なブランドなどを持っていません。ゆえに十分な市場空間があり、多くの参入者の争いを引き起こしてしまうのです。 

現在、「叮咚買菜」「毎日優鮮」などの生鮮ECプラットフォームにおいても、「TikTok」「快手」などのプラットフォーム上でのライブコマースにおいても、「美団」「餓了麼」などの地域の生活プラットフォームやコミュニティ団体購入プラットフォームにおいても、生花を買うことができることから、各業界のプレイヤーによる生花市場の奪い合いが激しさを増しています。盒馬(フーマー)はこのような多くの競合他社との争いに直面し、大きなリスクにさらされています。 

また、生花市場が繁栄している現在であっても、市場は需要と供給の構造上のアンバランスが浮き彫りになってきています。 

盒馬(フーマー)のデータによると、中国での生花消費シーンは、主に祝日の贈り物と式典のお祝いの花で、日常での生花の割合は全体小売規模の5%にすぎません。日本、アメリカ、ヨーロッパなどの先進地域では日常での生花が30~40%を占めており、それと比較するとまだまだ大きな差があるのが実情です。これは盒馬(フーマー)が、消費者の習慣を育むことが不可欠であることや、需要の季節的変動などの一連の問題に対応する必要があることを意味しています。 

特筆すべきは、生花の市場はイバラの道ではあるものの、まだまだチャンスを摑みとることができるということです。 

生花はもともと生鮮という大分類に属しており、その生鮮業界で成熟したビジネスモデルを持つ盒馬(フーマー)にとって市場参入は、比較的容易なことでした。 

また、日常で消費される生花は習慣化しやすく、購買頻度も高い「消費財属性」を持つ商品で、なおかつ消費者が美しさを感じれば購入しやすい商品です。このため、金額が適正であれば、オフラインからオンラインのスイッチするに適しています。 

現在の生花市場はまだ開拓期にありますが、消費シーンが深く浸透するにつれて、悦己型消費(「自分を喜ばせる」消費、注4)の発展は、消費者層や消費習慣などの面でより広がりを見せ、盒馬(フーマー)にとって転機となっていることがうかがえます。 

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おわりに

ひとつ明らかなことは、生花という市場は金鉱のようなもので、現在、待ち望まれているのは異なる分野の金穿大工(かなほりだいく)だということです。各分野のプレイヤーの参入に伴い、この生花の市場は想像以上に激化しています。盒馬(フーマー)はこの道を走り抜けることができるのでしょうか。さらに盒馬がどれほどの新しい戦略を持っているのか、それが日の目を浴びることがあるのでしょうか。新しい消費背景の中で、市場は瞬く間に変化します。ゆえにチャンスはいつも「準備ができている人」に残されているのです。 

注釈

注釈1: winshang.com:中国のビジネスデータプラットフォーム
注釈2: 「四不象」:シフゾウ、どんな動物とも似ていない珍獣。<喩>なんともつかないもの。
注釈3: 商務部:中華人民共和国商務部。経済と貿易を管轄する行政部門。
注釈4:悦己型消費(「自分を喜ばせる」ビジネス):生活を満足する最低限の機能的なサービスではなく、生活者自身の心を豊かにする高品質なサービスを提供するビジネス。中国の消費者の収入増加とともに、生活者の消費傾向がグレードアップし、「悦己ビジネス」が主流になりつつある。

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