NEW 2024.11.28
「おもしろ自販機」が切り開く新たな顧客体験
はじめに
最近、街中では飲料にとどまらないユニークな自販機が増えています。
私自身もいちユーザーとして街を歩く中で、冷凍食品、果物、トレーディングカード、さらには花や鍋などの自販機に出会い、写真を撮ったり商品を購入したりすることを楽しんでいます。
一方で、今やユニークな商品を扱う自販機はユーザーにとってもはや珍しいものではなくなり、その真新しさや話題性も以前ほど高くないため、単なる商品の意外性だけではユーザーを引きつけ続けることは難しくなってきています。
ブランド・商品とユーザーの接点の中で、自販機ならではの価値をどのように発揮すればユーザーにとってより便利で、ブランドとの関係性も高まるような体験を提供できるのでしょうか。
本記事では、画期的な「おもしろ自販機」の事例を通じて、顧客体験向上のための自販機の活用方法を探っていきます。
「ちょうど必要な時に手に入る」体験
2023年夏にJR原宿駅に期間限定で登場した「ビオレ 冷タオル冷蔵自動販売機」。この自販機は、空調の効いた電車から降りて外気の暑さに直面したタイミングを捉えて駅のホームに設置されました。同年には横浜スタジアムやベルーナドームにも設置され、好評だったそうです。
自販機自体の冷却機能を用いて商品を-5℃に冷やして販売することで、必要なタイミングで冷えた状態の商品を素早く購入して利用できることが人気の要因だったと考えられます。
このように、ユーザーニーズに合わせたタイミングで本来の価値を高めた状態の商品を提供することで、話題性を高めながら売り上げやブランドロイヤリティの向上にもつなげることができます。
引用元:”その場でヒンヤリ体験を今年も実施!次世代自販機PRENOと「ビオレ」のコラボ自販機”
「買い物の失敗を減らせる」体験
2024年春にドン・キホーテの一部店舗で導入されたプロテインの自販機は、SNS上で大きな話題になりました。この自販機では、店内で売られているプロテインのうち、複数のフレーバーをその場で一杯から試すことができます。
プロテインは従来大容量で販売されているものが多い一方で、味を試せる機会が少ないため、大袋を購入した後に口に合わず残してしまうという課題がありました。
それに対して、プロテイン自販機では店内でプロテインを気軽に味見できることによってユーザーの買い物の失敗に対する不安を解消し、商品の購入ハードルを下げることができます。
また、小袋のお試し品を購入して自宅で試し、再来店時に大袋を購入するという2段階の購入体験ではなく、自販機で試飲・比較検討してからすぐに現品を購入できるような体験設計がされており、検討開始から大袋の商品の購入までを一連の購入体験の中で完結させることができます。
このように、購入体験においてユーザーの抱えている課題を適切にとらえ、一連の購買体験全体を俯瞰して自販機の施策を活用することによって、ユーザーへの提供価値を最大化できるのではないでしょうか。
さらに企業視点としては、ユーザー自身の納得感を持った購買体験により、メーカー・企業への信頼が増してリピート購入・クロスセルの可能性を高めることも期待できます。
SNSでご好評頂いている、
ドンキの『プロテイン自販機』行ってきました🏃♀️!「プロテインは高いから失敗したくない…」
「新しいものになかなか挑戦できない…」
みたいな方は是非この自販機でお試しから!今は溝ノ口店・狩場インター店で導入してますが順次いろんな店舗でも展開予定です🗓️ https://t.co/6Hr8rT8Gie pic.twitter.com/5i04bBE0PN
— 驚安の殿堂 ドン・キホーテ🐧 (@donki_donki) September 24, 2024
「従業員体験・社会的価値を向上させる」体験
自販機によって、ユーザーの体験向上のみならず従業員や社会課題の解決まで試みた事例もあります。
JR品川駅構内の「NO SLEEP SHOP」では、店舗と同様の商品を扱う自販機型のショップを店舗の隣に設置しています。
店舗に自販機が隣接していることによって営業時間外での販売や営業時間内の集客分散ができるため、ユーザーにとってのフリクションレスな体験の提供のみならず、働き方の負担軽減による従業員の体験向上にもつながっています。
引用元:”<開始1週間で大反響!バターのいとこの自動販売機> | 株式会社GOOD NEWSのプレスリリース”
また、社会的な価値向上の観点でも自販機は活躍します。
みなとみらい線馬車道駅に設置されたパンの食品ロス対策自販機では、隣接するパン屋の閉店後に余ったパンを自販機でパンを販売することで、ユーザーの仕事帰りなどのタイミングに定価より安くパンを買うことができるといいます。
さらに、閉店後に余ったパンの購入機会を設けることによって1.5トンの廃棄削減が見込まれ、社会的な課題解決にも貢献しています。
このような自販機の設置は、ユーザーに対する新たな価値提供に加え、企業と社会にとっての持続可能性を高めるための重要な取り組みと言えるでしょう。
引用元:”食品ロスを削減するロッカー型自販機を馬車道駅に設置 ~ロッカー型自販機を使ったパン販売でSDGsに貢献~ | 日本最大手のコインロッカー専門メーカー 株式会社アルファロッカーシステム”
おわりに
本記事ではユーザーの課題を解決する画期的な自販機体験の事例を紹介しました。
自販機による画期的な体験を考える上では、自販機での商品販売は目的ではなくあくまで手段であるということを意識することが重要です。
ユーザーの日常の行動や購買体験における課題・インサイトを適切にとらえ、それを解決するための手段として自販機を活用することで、画期的で価値のある顧客体験を実現し、ひいてはブランド・商品へのエンゲージメントも向上させることができるのではないでしょうか。
濱藤柚香子
トランスフォーメーション部門
2020年に電通デジタルに入社。 ユーザー起点での画面設計やUXリサーチ、ワークショップ設計・運営業務など幅広い支援業務に従事。
※所属は記事公開当時のものです。
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