2022.03.24
旅系インフルエンサー『旅する2人』に聞く、旅とUX
旅行などによる人の移動に制限がかかる今、SNSではインフルエンサーによる体験型の映像や投稿が注目を集めています。
総フォロワー数60万人を抱える若手旅系インフルエンサー『旅する2人』のゆうきさんときょうかさんに旅の中で印象に残るUXや、これからの旅行体験の変化について聞いてみました。
目次
大好きな“旅”に訪れた予期せぬ危機。いま自分たちにできること
ゆうきさんが『旅する2人』をSNSで立ち上げたのは、2020年5月。
新型コロナウイルス感染症が世界的なパンデミックとなり、各国が海外渡航や国内の移動を制限するようになった頃でした。
旅好きのゆうきさんが心配したのはホテルや宿泊業への影響です。インバウンドも国内旅行者も激減していました。
ゆうきさん(以下Y)
「僕が発信することで少しでも業界の支援につながればと思って、急いでアカウント設計を始めました。
最初はYouTubeをやりたいと思っていましたが、新参者がYouTubeでいきなりというのは難しいので、まずは2020年5月にTwitterアカウントを開設しました。
旅行というのを贅沢なもの、特別なものから、もっと身近なものにしていきたい、立ち上げ時はそれを前面に打ち出しました。
Twitterは一番難しいメディアです。140文字の中でどうやって伝えたいことを詰め込むか、画像は4つ入りますが、各画像の背景がつながってしまうとわかりにくいとか、そういったことはよく考えました。」(Y)
初投稿からわずか2か月で、フォロワーは10万人に到達。広告やアフィリエイトリンク等もなく、ゆうきさんがこれまでに泊まって良いと感じたホテルを次々と紹介していく中で日に日にフォロワーが増えていきました。
「僕の考えでは、ひたすらgiveを続けていれば、いつかは返ってくるだろうと思っていました。」(Y)
立ち上げからしばらくたって、きょうかさんが参加。最初は気軽に投稿の手助けを始めたそうです。
きょうかさん(以下K)
「フォロワーが2万人くらいになった時に彼から初めて聞きました。私も旅行には行っていましたが、彼ほど大好きではなく、以前は関東からあまり出たくないと思っていました。当時はまさかここまで大きくなると思っておらず、一緒に旅行して一緒に投稿するのが楽しいという感覚でした。
今は主に、画像や動画の編集とフォロワーさんとのコミュニケーションを担当しています。
DMにはできるだけお返事していますが、“返ってくると思わなかった”と喜んでくださる方が多く、こちらも嬉しくなります。
質問はおすすめの旅行先やホテルなどの質問が多く、できるだけ選択肢を挙げて、一人一人に丁寧にお返事するよう心がけています。
他にも、定期的にインスタのストーリーズに質問箱を置いて、プライベートな質問にも積極的に答えています。私たちは芸能人ではないので、フォロワーさんにとって身近な存在であることを大切にしています。」(K)
また帰りたいな、と思える宿。宿のもつストーリーが記憶に残る
Twitter開設からわずか2年足らずの間にお二人は、Instagram、YouTube、TikTokに次々とアカウント開設。今ではSNS総フォロワー数は60万人に到達しています。これまでお二人が経験された良い宿の共通点とは何かを聞いてみました。
「空間が素敵とか、食事がおいしいのももちろん大事ですが、一番はその宿のもつ世界観やストーリーに惹かれます。
北海道の『青い星通信社』は、本物の大自然の中にポツンとある一日3組限定の宿なのですが、その町に強い思い入れを持っていたオーナーさんが何年もかけて夢を叶え、オープンしたのだそうです。
オーナーさんご夫婦からお聞きしたそのストーリーがとても印象的で、温かい体験でした。また帰りたいな、と今でも思う宿ですね。」(K)
ホテルの所在地は北海道美深町。小説家村上春樹さんの初期の代表作『羊をめぐる冒険』の舞台はこの町をモデルにしたといわれています。『青い星通信社』はこの小説を愛しているオーナーが2019年に開業しました。
「良い宿には数多く出会ってきましたが、やはり、その魅力が記憶に残るかどうかだと思います。
大手出版社の記者としてバリバリに働いていたオーナーさんがその町の風景に魅了されて、何度も通っているうちにホテルを作ってみたいと思ったのだそうです。
廃墟になっていたレンガ造りの建物を手に入れて自分で改装したり、小さな旅館で働いて勉強をされたり…。オーナーさんが過ごしてきたすべての過程がその宿の空間に反映されていて、僕の記憶にしっかりと残っています。」(Y)
まずSNSで行きたい宿を探す。変化した旅の予期的UX
SNSの普及により、旅に見るUXも変化を遂げています。旅の予期的UX(旅に出かける前のユーザーの体験)はどのように変化したのでしょうか。
「以前は、OTA(オンライントラベルエージェンシー)が情報量も権威も大きく、そこで宿を探すことが当たり前でしたが、今ではSNSでホテルを探して、選んでからOTAで予約する人が増えてきています。
これは、飲食の世界では先に起こっていた流れで、食べログなどのグルメサイトで店を検索して予約するという行動が、まずSNSで行きたい店を探すという風に変化してきました。旅行も同じような流れです。
僕らがSNSで発信を始める前はまだ影響力のある旅系インフルエンサーはかなり少ない状態で、当初のユーザーにとっての価値は、情報としての価値、知る知らないの価値が大部分を占めていたと思います。
しかし、今はかなりSNSの発信者が増え、多くの人がもうこの宿は知っている、という段階にきています。
情報の発信者が顔出ししていたり、実際に体験している声が反映されていたり等、インフルエンサーの発信の仕方を見るようになり、ユーザーが成長してきているのを感じます。
僕たちは複数のSNSを活用しているので、TwitterはWebメディアの『HITOTOKI』(https://hitotoki-hotel.com/)と関連させて『情報』に力点を置いたものにしています。
逆にInstagramでは、顔出しで僕たち、主に『きょうかがどう動いているか』をメインにし、それをさらに強化するためにTikTokも始めました。つまり、情報価値と、自分たちの世界を伝える価値とで使い分けをしています。」(Y)
今では、投稿に挙げた宿やホテルに、“旅する2人を見てきました”という人がやってくることも増えているといいます。
「ユーザーさんが実際に足を運んでもらっているのを知るととても嬉しいです。以前は、恥ずかしさもあってあまり自分を出さないこともありましたが、今後はもっと自分たちを出して信頼してもらえる発信者になっていきたいです。
23歳の二人が日本中をめぐって発信している、というのを見てもらえたらと思っています。」(K)
リアルだけが旅ではない、旅行体験の変革が始まる
SNSで多くのフォロワーを獲得してきた2人のこれからの活動や、2人が考える新しい旅行体験の形について聞いてみました。
「2021年の秋に立ち上げたWebメディア『HITOTOKI』(https://hitotoki-hotel.com/)では、独自におすすめのプランをつくって紹介しています。
若い人をターゲットにしているので、タグだけで宿が探せるなどの機能をつくっていますが、使いやすさを追求していけば、いずれはすべての年代の人に通じるのではないかと思っています。
今はまだベータ版みたいなものですが、本来の目的は、旅行好きとして一つの思想のようなものを提案し、『HITOTOKI』の世界に共感してくれる人たちのメディアにしていくことです。その人たちとつながることで、何か面白いことをしていきたいと思っています。」(Y)
他にも、2022年に入って、ゆうきさんは旅系インフルエンサーの仲間を集め、チームで活動していくための会社を設立しました。集まったインフルエンサーが抱えるフォロワーの合計は300万人に到達するそうです。
「これからやっていきたいことの中で、今、僕が一番注目しているのがバーチャル旅行です。これからは、新たな体験価値としてもそこが求められると思います。
今もTikTokなどでバーチャル旅行風にきょうかや僕が動いて、ユーザーに旅行体験を提供していますが、深さとしてはまだ浅いものにとどまっています。
そこをもっと深めていくようなムーブメントが作れたら、今後、リアルな旅との置き換わりが起こってくるのではないかと考えています。
そして、ユーザーはバーチャル内で本当に好きな宿を探してどうしてもここに行きたいと思うようになるでしょう。そうなった時こそ、ユーザーの心に刺さるコンテンツの体験が本当に価値をもつでしょう。そんな時代はもう遠くないと僕は思っています。」(Y)
旅する2人
ゆうきさん/きょうかさん
日本全国を旅しながら発信。SNS総フォロワー数60万人(2022年3月時点))。 2020年5月にTwitter「旅する2人」(@futaritrip)開設、わずか2か月で10万フォロワーを獲得。その後も急成長を達成しつつ、Instagram、YouTube、TikTokにもアカウント開設。 2021年11月 Webメディア「HITOTOKI~至福のひと時を過ごす宿が見つかる」という タグ検索で楽しみながら宿探しができる、旅する2人ならではのサービスサイトをスタート。
※所属は記事公開当時のものです。
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