2021.10.04
Amazonの成長要因は「徹底した顧客体験の追求」と「高速PDCA」
近年、企業が新しいサービス(またはプロダクト)を設計する際に「人間中心」の視点を取り入れることが多くなってきました。
顧客提供価値を中心にサービスを考える「人間中心設計」の方法論(デザイン思考/デザインスプリント/デザイン・ドリブン・イノベーションなど)がこれに該当します。
この「人間中心」の視点は新しいサービス(またはプロダクト)のみならず、サービス/プロダクトローンチ後の改善フェーズでも有効なことはまだあまり知られていません。
近年の成長企業では、顧客提供価値に重きを置いた「人間中心」なサービス改善を高速でまわすことで成長している例が多く見られます。
電通デジタルでは「人間中心」な視点で高速にサービス/プロダクトの改善を繰り返すことによるクライアント企業の事業成長を支援するプロジェクトチームがあります。
具体的な支援軸は2つあります。1つ目は、「人間中心」な切り口での分析、つまりユーザー行動分析を活用し、データドリブンな顧客体験の改善の実現です。2つ目は、高速なPDCAのために必要な仕組みづくり(分析基盤構築、組織や会議体の定義、人材育成)です。
そのプロジェクトメンバーの視点から、「人間中心」なサービス改善の事例などを今後お届けしていきたいと思います。
初回の事例はAmazon.com(以下Amazon)の成長要因に迫ります。
時価総額ランキング上位企業の成長のポイントとは
「かつては多くの日本企業が名を連ねていた世界時価総額ランキングが、大きく変わってしまった」(
時価総額ランキングに名を連ねる企業の成長のポイントは何でしょうか。
著名な成長企業の1社にAmazonがあります。
Amazonのウェブサイトや、Amazon初代CEO、現会長のジェフ・ベゾス氏の発言から、「顧客体験の追求」と「学習文化」が鍵であることがわかります。それぞれ具体的に見ていきましょう。
顧客体験の追求
Amazonのウェブサイト上には、Amazonが大切にしていることについて、次のような記載があります。(
私たちの DNA – 地球上で最もお客様を大切にする企業であること
Amazon.com が 1995 年にビジネスを開始した際、Amazon.com は「地球上で最もお客様を大事にする企業」であることを使命とし、お客様がオンラインで求めるあらゆるものを検索、発見し、可能な限りの低価格で提供するよう努めて参りました。 この目標は今日も継続しています
また、同サイト上に、Amazonの “Our Leadership Principles” という14項目からなる信条がありますが、その1つ目も、同様に「顧客(カスタマー)」から始まります。
Customer Obsession
リーダーはカスタマーを起点に考え行動します。カスタマーから信頼を獲得し、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合に注意を払いますが、何よりもカスタマーを中心に考えることにこだわります。
上記2つの記載から、Amazonは顧客(カスタマー)を強烈に意識している企業であることがわかります。
この点をふまえ、Amazonが世に出してきたサービスを見てみましょう。
Amazon Prime
顧客の「注文した商品をすぐに欲しい」ニーズを実現し、「送料がかかるのは嫌だ」というフリクションを解消。
Amazon Push
顧客の「日用品が切れてしまいそうなとき、買い足すのを忘れてしまい、使いたいものがない日があった」フリクションを解消。
Amazon Go
顧客の「買い物をする際にレジに並ぶ時間がもったいない、決済の手間をかけたくない」フリクションを解消。
Amazon Echo
顧客の「家でくつろいでいるとき、手元にスマホが無くても簡単に注文したい」ニーズを実現。
Amazonのウェブサイトの記載とこれらのサービスを照らし合わせると、いずれのサービスも、より良い顧客体験を追求し、顧客の満足点を増やしフリクションをなくすことに注力した結果であることが推測できます。
また、電通報でのアマゾンジャパン合同会社市川氏との対談記事にも印象的な言葉があります。(
「サービス拡充については、他の事業者を意識するということはないのでしょうか?」
市川氏「もちろん情報としては入ってきますが、それはお客様がどのような環境に接しているかを把握するためという感じですね。他社のサービスを意識的に追従するといったことはありません。」
新サービスローンチ後によくしてしまうのが、競合他社のサービスに追随し新機能を次々と実装することではないでしょうか。
市川氏の言葉から読み取れるのは、サービスローンチ後の改善フェーズでも、「競合」ではなく「顧客」を第一にする姿勢です。「新機能を追加したけれど顧客の継続率向上につながらない」ときにはこの言葉がヒントとなりそうですね。
ここまで、Amazonが「顧客体験を追求」してきたことについて触れてきました。
続いて、Amazonの成長要因の2つ目「学習文化」について見てみましょう。
学習文化
ジェフ・ベゾス氏は学習文化についてこう言います。
Our success at Amazon is a function of how many experiments we do per year, per month, per week, per day.(
出典4 )
(Amazonの成功は、月に、週に、日にどれだけたくさんの学習を繰り返せるか、その仕組みによるものだ)
上記発言で、ジェフ・ベゾス氏は、「学習の繰り返し」「それを実現する仕組み」を強調しています。
この「学習文化」を活用し成長している企業はAmazonだけではありません。近年顕著な成長を遂げている多くの企業が取り入れています。
例えば、Netflixは年間1,000回以上、Googleは年間7,000回以上、P&Gに関しては年間10,000回程度に至るPDCAを繰り返しています。(
Amazon、Netflix、Googleと続くと、「学習文化」は、新興企業だけが取り入れられるものだと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、P&Gも学習文化を取り入れていることから、この文化は新興企業だけが持てるものではなく、歴史ある大企業にも適用可能であることがわかります。
学習を高速に行うためには
ここで注目したい点は、Amazonが「per day」と言及していることです。
日々、高速のPDCAを回すためには、意味のある分析を高速で行うこと、改善案を素早く立案・決定・実装することが必要です。
しかし、様々な企業のご担当者様とお話する中で見えてきたのは、スタート地点となる「分析」に関する課題です。
「分析」ができていないためカンや経験に頼り改善を行うケースや、「分析」に時間をかけ過ぎてしまっているケースが多いことがわかりました。
ここからは、顧客体験理解/改善のための「分析をどう行うか」「分析をどう高速化するか」について、例をお示ししつつ、記載します。
例として、SpotifyやAWAのような音楽配信サブスクリプションサービスを提供する企業が、初回利用時の顧客体験価値を高めるために行う分析を見てみましょう。
「初回訪問者にどんなアクションをお勧めしたら顧客体験価値が高まるか」を特定するため「どのような行動をしたユーザーがサービスを継続利用してくれているか」確認します。
まず、どの機能がどのくらいのユーザーに利用されているかを把握します。(ここでは、横軸に、MAUの何パーセントが利用しているか、縦軸に1ユーザーあたりどのくらいの頻度で利用しているかをプロットしています)
この中で、どの機能がサービスの継続利用に寄与しているか目星をつけます。
例えば、「お気に入り登録」機能や「音楽/動画のシェア」機能を利用している人が継続利用しやすいのではないか、と仮説を立てます
次に、それぞれの行動をしているユーザーの継続利用率にどのような差異があるか見ます。
(行動セグメントごとに、利用開始したユーザーの何%が、利用開始からX日後に再び利用しているかをプロットします。)
このような分析を繰り返すことで、顧客体験と継続率の関係性を可視化し、「どの機能の利用が継続利用に寄与しているか」つまり「初回訪問時にどの機能を体験することが継続利用に有効か」見極めることが可能となります。
この分析結果により、継続利用率を高めるための打ち手の立案が容易になります。
たとえば、初回訪問時にポップアップで「お気に入り登録」機能の案内をする、チュートリアル内に「お気に入り登録」機能の体験を組み込む、などが考えられるでしょう。
以上のように、ユーザー行動軸で分析を行うことにより、顧客体験を改善し、事業成長に向かう有効な打ち手を明確にすることが可能です。
ただし、深堀分析となるため、定型のダッシュボードを見ることと異なり、都度分析工数を要することが難点です。
このユーザー行動軸での深堀分析を「高速に」行うための方法は2つあります。
1つ目は、自社エンジニア/アナリストリソースを分析に寄せて、自社リソースで進める方法です。
初期のfacebook社はこの方法を選択していました。
自社リソースに「マーケティング感覚を持ったアナリスト」がおり、潤沢な分析工数を割くことが可能な場合は前者で進めることが可能です。そうではない場合には、外部パートナーの並走支援を受けながら最適なツールを活用することが有効です。外部パートナーやツールが持つ成長企業のベストプラクティスを活用できるという点も、後者のメリットと言えます。
調査手法を選択するデータリテラシーの必要性
顧客体験を理解する手法として、顧客インタビューを思い浮かべる方もいらっしゃるかと思います。
インタビューと行動データ分析の違いや、活用について記載します。
もちろん、インタビューは顧客体験を把握するために有効です。
特に、「どう感じたか」をダイレクトにヒアリングできる点は行動データ分析にはないメリットです。カスタマージャーニーやペルソナを描く際にインタビューを用いる方は多いかと思います。
一方、インタビューを実施するには、リクルーティングやインタビュールームの手配など、事前準備も多く、そう頻繁には実施できません。
ここで、ベゾス氏の発言、「月に、週に、日にどれだけたくさんの学習を繰り返せるか」に立ち返ります。数か月に一度のインタビュー結果は、日々の改善に活用することができません。
「日々、昨日の(あるいは数時間前の)データを見て、実装した施策の効果を判断すること」このスピード感を出すためには、ユーザー行動分析をいつでもできる環境を整えておくことが有効です。
日々のPDCAはユーザー行動分析を活用し高速に繰り返しつつ、必要なタイミングでテーマを絞りインタビューなどの手法を組み合わせるのがよいでしょう。
事業成長の方法論に明るいショーン・エリス氏も、「定性調査と定量のデータ解析を併用し、ユーザーの行動に関する深い洞察を得る」必要性を説いています。シーンに合わせ調査/分析方法を選択するデータリテラシーが必要です。
本記事で記載したこと
今回は、以下についてご紹介いたしました。
・時価総額上位企業がここ数十年で様変わりしている
・時価総額上位企業の1つであるAmazonは、「顧客体験の追求」を大切にしている
・時価総額上位企業や成長企業は、PDCAをまわす「学習文化」を取り入れている
・「学習文化」の実現には、高速で意味のある分析が必要不可欠である
・高速で意味のある分析を行うには、自社リソース対応、外部ツール活用の2つの選択肢がある
・状況に応じ調査/分析方法を選択するデータリテラシーが必要である
いかがでしたでしょうか。本記事が、御社の事業成長の参考になりましたら幸いです。
出典・参考URL
https://media.startup-db.com/research/marketcap-global
https://aws.amazon.com/jp/careers/culture/
https://dentsu-ho.com/articles/4510
https://www.fastcompany.com/3063846/why-these-tech-companies-keep-running-thousands-of-failed
画像引用
https://media.startup-db.com/research/marketcap-global
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神田知典
CX戦略プランニング事業部
外資系大手システムインテグレーター、事業会社マーケティング職等を経て、電通デジタル入社。デザイン思考やグロースに触れプロジェクトを推進する中で、「顧客視点でサービス/プロダクトを高速で改善する」必要性を痛感。行動データ分析を活用し事業の成長を支援するプロジェクトを推進している。
※所属は記事公開当時のものです。
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