2021.07.16
ニューノーマルにおける業界別トレンド#2【家電・IoT】~CES2021より~
#1の記事(リンク)に引き続き、今回は家電・IoT業界における今後のトレンドを紹介していきます。
サマリー(家電・IoT)
家電やIoTのセッションでは最新の家電製品の動向や、IoTの活用や課題、パンデミックによる生活への影響と変化について語られていました。従来型の家電製品がどのように変化し、これまでにない全く新しいIoT家電製品とサービスが、我々の生活をどのように変えていくのか、といった様々な可能性について示唆されていました。
家電メーカー動向
まず、家電メーカー各社の発表から見る新たなビジネスの兆しについてです。グローバルな家電メーカーでは積極的な家電のIoT化を進めており、冷蔵庫のようなこれまでITとは縁遠かった製品もIoT化させることで、新しいライフスタイルを提案できるようになります。例えば、冷蔵庫が通信機能を持つことで自宅のキッチンが料理教室にもスーパーマーケットにも切り替わり、キッチンが単なる作業場ではなくコミュニケーションの場へと変わります。
また、共働き世帯やリモートワーカーに向けた家庭内ロボティクスも、ロボット掃除機を筆頭に、家事サポート機能を搭載した製品が広く展開を始めています。その背景には家庭内の働き手の補填や、自動運転の技術の応用やセンサー部品の転用があるようです。
さらには、様々な製品のIoT化は家庭内にとどまらず、例えば駅などの公共のスペースに置かれるロッカーもスマート化され、それを活用した生鮮食材のC to C販売などの構想もあり、リテールビジネスにも大きな影響を与えます。公共空間におけるロボティクスの活躍はコロナ禍により加速し、飲食店の配膳ロボットや感染リスクのある公共空間を自動で殺菌消毒を行うロボットまで登場し始めています。
“人の身体機能を代替できる”ロボティクスを活用したサービスが始まると、これまでのスマートフォンやPCが行う情報処理だけではできなかった領域にも進出が可能になり、さらに幅広い需要と新たな社会システムが生まれると予想できます。デジタル化はネットワーク上を行き来する情報を情報のまま活用するだけではなく、物理的にも出力され、リアルな世界とさらに融合するフェーズに入っていきます。
これからのIoT
会議セッションにて話されていた、IoT市場の現状と課題についても紹介していきたいと思います。世界中に広がったパンデミックはIoTサービスの急速な普及を促しましたが、その結果、様々な課題も浮き彫りにしました。IoTサービスは便利な一方で、セキュリティの問題や、新規導入のハードルがあることも忘れてはなりません。
一般的なスマートフォンのアプリでも個人情報を取り扱う以上、セキュリティの問題は常に付きまといます。それがIoT製品となれば尚、情報漏洩が起きても気が付きにくくなります。
その解決の一手として、個人情報のデバイス上のローカル保存とクラウド保存の使い分けがあります。クラウドで管理されるデータはどれほどセキュリティを高めても、常に悪質なハッカー、クラッカーによる情報漏洩のリスクがあります。その点、完全にローカルで管理されるデータはネットワークにつながっていないため、物理的に盗難されでもしない限りデータが漏洩する可能性は低くなります。
IoT製品はその見た目だけではわからないテクノロジーが搭載され、多くの情報を持ち、様々なネットワークとつながっています。これからはデータがどこにあり、どのように管理されているのか明確にする必要性が問われることになるでしょう。便利なクラウドなのか、安全なローカルなのか、2つの仕組みを使い分ける進化を遂げていくことになりそうです。
もう一つ議論のテーマとなっていたことは、広くIoTが普及していく上で課題となる、導入のハードルと、オンボーディングの煩わしさについてです。IT機器の操作が苦手なユーザーや高齢者も等しく使えるための工夫は、シェア拡大には必須となります。何でもソフトウェアやGUI(Graphical User Interface)(※1)で処理するのではなく、フィジカルな構造や動作との組み合わせや、ハードウェア単体でも完結できるような、直感的なユーザービリティも必要です。ニューヨーク発のベンチャー企業Casperは快適な睡眠体験の提供を事業としており、自然な睡眠を促すIoT照明『Glow』を開発しました。
『Glow』はスマホで操作せずとも環境の明かりを検知し、明るさを自動調整することができ、ONOFFのスイッチも本体を逆さまにするという極めてフィジカルな手法で解決しています。これは誰にでも簡単に使えるだけでなく、睡眠前にスマートフォンの画面を見て操作することが快眠のためには不適当だと考えた結果と予測され、入眠時の身体に最適化したUXデザインだと言えます。
このようにスマートフォンに縛られないIoTは、導入のハードルを下げるだけでなく、体験の幅も広げることができます。分厚いマニュアルやサポートを受けずに、複雑な操作なしに使えるシームレスな体験は、これからのIoTサービス開発のキーワードになるでしょう。
※1:コンピュータの表示・操作体系の分類の一つで、情報の表示に画像や図形を多用し、基礎的な操作の大半を直感的に行うことができるもの。
おわりに
IoTサービスの道のりはまだまだこれからです。様々なSaaSビジネスが隆盛を極めた昨今、これからはフィジカルプロダクトを含んだSaaS Plus a BOXと呼ばれるハードとソフト、フィジカルとデジタルとが融合したサービスがますます重要になってくることは間違いないと私は考えています。
岡部亮介
CXクリエーティブ事業部
美術大学を卒業後、家電メーカーに入社。日本、北米市場に向けたスマートフォン、フィーチャーフォンのプロダクトデザインや通信機器の先行開発提案などに携わり、コンセプトから開発、量産までのデザインワークを一貫して経験。2020年電通デジタル入社。IoTサービス開発などを担当する。
※所属は記事公開当時のものです。
RELATED REPORT