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2020.12.22

アントフォーレスト(蚂蚁森林):ユーザーの日常行動と社会貢献をつなげるバーチャルゲーム【中国デジタル最前線】

#イノベーション#グローバルトレンド#ケーススタディ

馬問津 馬問津

アントフォーレストとは

「アントフォーレスト」とは、アリババ社のライフスタイルプラットフォームアプリ「アリペイ」に内蔵されたミニプログラムの一つである。2016年よりスタートし、2019年4月まで、ユーザー数は5億人を超えた出典1。2019年には、国連環境計画(UNEP)の「チャンピオン・オブ・ジ・アース(発想・行動部門)」を受賞した出典2

画像引用元:アリペイアプリ内スクリーンショット

基本的な仕組みはいたってシンプルで、アリペイやアリババ系サービスの利用を通じて環境に配慮した行動(徒歩、公共交通機関の利用、オンライン決済、バーチャルオフィスの利用など)を行うことによって、ユーザーがエコポイントを獲得することができる。そのポイントでアプリ内の「木」を育てていくのだ。日本にも存在するバーチャル農場ゲームとほぼ同様の仕組みである。

そして、一定のエコポイントがたまると、植林の必要な地域に本物の木が植えられる。木の種類によって、一本の木あたり、所要するエコポイントは10万~20万ポイント前後。通常のアリペイ利用と歩行で溜まるポイントはおおよそ100ポイントで、一本の木を育てるに2-3年かかりる。バーチャルでとどまらず、実際の木を植えるビジネスモデルは今までのオンラインエコプロジェクトに前例はない。

これまでに植林された樹木は1億本以上、植林総面積は933平方キロメートルで、一般的なサッカー場のほぼ13万個分に相当する。(2019年4月22日時点)出典1

画像引用元:アントフォーレスト Alipay(アリペイ)公式アカウント

アントフォーレストがなぜここまでユーザーに好かれているのか?

①ユーザーのペインポイントを把握できていること

日本でもよく知られる、北京の大気汚染問題は中国人にとっても深刻なものである。一方で、「どう行動すれば改善されるのかわからない」、「一人の力では大して改善はされないだろう」、「かといってそこまでお金や労力をかけられない」という気持ちを持っている人は少なくはない。

アントフォーレストの誕生は、エコポイントをためることによって、ユーザーのニーズ「環境を良くしたい」を叶えることができているのである。

②ユーザーにとってハードルの高い行動を求めない

エコポイントの獲得条件は、“環境に配慮した行動をすること”であるが、徒歩や公共交通機関の利用、オンライン決済などであることから、日々のユーザーの行動に近い。つまり、ユーザーにとってハードルの高い行動を要求していないことが「アントフォーレスト」が使い続けられている理由の1つだろう。

③ユーザーに成果の可視化と共有

「環境に配慮した行動をとる→エコポイントがたまる→アプリ内の木が育つ→本物の木が植えられる」ことで、行動の成果が可視化されるため、ユーザーの満足度は高い。

さらに、「アントフォーレスト」公式SNSアカウントでのリアルタイム発信により、いかに多くの人が「アントフォーレスト」の利用によってエコ活動に参加しているかの実感が湧くのである。

④ユーザー同士をつなげる

「アントフォーレスト」にはエコポイント獲得のランキング機能も付いていて、ユーザー同士で競争したり、助け合うことができる。

中には、アントフォーレストで、一本の木を育てながら、二人の仲を育むカップルもいる。

アントフォーレストがもたらすアリババ系サービスへの価値

アントフォーレストはアリババのビジネスへも恩恵をもたらしている。

一つ目の恩恵は、アリババ系サービス全体のアクティビティ向上だ。アリペイのみならず、ユーザーがアリババ系サービス(タオバオ、ツァイニャオ、盒馬鮮生、DingTalkなど)を使用することでエコポイントを獲得できる。ユーザーは獲得ポイントを確認するためにアントフォーレスト(アリペイ)を起動することで、アリペイ自体のアクティビティーを高める効果もある。

二つ目の恩恵は競合であるWeChatとの差別化である。オンライン決済を条件に入れていることから、エコポイント獲得のために「アリペイ」を利用するユーザーが増え、WeChatとの差別化を図ることができる。ここにアリババ社のオンライン決済「アリペイ」におけるビジネス戦略がうかがえる。

今後のアントフォーレスト

このような実績が認められアントフォーレストは、前述の国連環境計画(UNEP)以外にも、複数の賞を受賞している。さらに、アントフォーレストによるエコポイントを貯める「炭素口座」も開設されている。「炭素口座」具体的な使い方やビジネスモデルはまだ明確ではあるが、アリババグループの未来の金融ビジネスを担うサービスになるだろう。今後のアントフォーレストの動向にも注目していきたい。出典3

参考:
人人都是产品经理 2020年4月20日「想再复制一个蚂蚁森林?不太可能」
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1664508597336816146
GloTechTrends 2017年08月12日「【総合フィンテック企業とは】第3回 「アント森林」 は、CO2削減を目指すグリーンフィンテックに挑戦!?」
https://glotechtrends.com/ant-forest-alipay-171208/
出典:

(出典1) ALIBABA NEWS JAPANESE 2019年4月22日「アリペイユーザーが中国に植林した樹木は1億本を超えた」
https://jp.alibabanews.com/alipayusers_ant_forest/

(出典2) AFP BBnews 2019年9月24日「アリペイのバーチャル植林、2019年度「チャンピオン・オブ・ジ・アース」を受賞」
https://www.afpbb.com/articles/-/3245808

(出典3) Science Portal China 2016年9月6日「4億5000万の中国人が開設する「炭素口座」 とは?」
https://spc.jst.go.jp/news/160902/topic_2_01.html

画像引用:
  • アリペイアプリ内スクリーンショット
  • アントフォーレスト Alipay(アリペイ)公式アカウント
馬問津

馬問津

CXクリエーティブ事業部

中国出身。美術大学卒業後、2020年に電通デジタル入社。サービス構想からUI設計まで、クリエーティブを起点とするユーザーエクスペリエンスデザイン業務を行っている。

※所属は記事公開当時のものです。

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