2021.08.06
ユーザー視点でビジネスを支援する「UXコンサルタント」
テクノロジーの進歩によって消費者の行動や消費対象は多様化しています。
このような状況下で企業が効果的なマーケティング活動を行うためには、ユーザーの視点を取り入れることが重要です。具体的には、アンケート・ログデータなどの定量的なデータに加えてユーザーへのインタビューやサービスの検証・テストなどを実施し、ユーザーが抱えている課題や行動背景に沿った適切な解決策の導出を行うことが有効です。
ただ、自社・クライアント問わず企業としての成長を見据える際には、マーケティングやビジネスの視点も欠かせません。
一見相反するように見える「ユーザー視点」と「ビジネス視点」。これらの両方のバランスを取りながらクライアントのビジネスを推進していくのが我々「UXコンサルタント」の役割です。
本記事では、人間中心設計推進機構(HCD-Net)が認定する専門家資格を持つ電通デジタルのマネージャー2名へのインタビューを基に、コンサルティングにUX視点を取り入れることの意義や難しさ・面白さについてご紹介します。
人間中心設計および人間中心設計専門家とは
人間中心設計とは、「システムの使い方に焦点を当て、人間工学やユーザビリティの知識と技術を適用することにより、インタラクティブシステムをより使いやすくすることを目的とするシステム設計と開発へのアプローチ」です(
より良いユーザー体験を考えるためには、最終的なデザインにこだわるだけでは不十分であり、プロセスを追求してそれを継続的に回すことで結果的に企業の価値を高めていくことができます(
そうした人間中心設計を行っている人を、人間中心設計推進機構(HCD-Net)は、「人間中心設計専門家」として認定しています。(
弊社には、人間中心設計専門家12名、人間中心設計スペシャリスト9名の計21名が在籍しており(2021年4月現在)、真にユーザーにとって良い体験を考えながらプロジェクトを推進しています。
人間中心設計専門家の資格取得には、5年以上のUX業務の経験に加えてそれらを体系化して表現する能力を有する必要があります。そのため、取得のハードルはやや高いです。ですが、専門家資格を取得することによって社内外の研修への登壇機会が増えたり、クライアントとのコミュニケーションのきっかけにもなったりと業務の幅が広がるため、UX業務に携わるうえでは非常に価値のある資格だと言えます。
「UXコンサルタント」として仕事を行うこととは
みなさんは「UXコンサルタント」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべますか。
「UXデザイナー」「UXリサーチャー」という職種は皆さんも聞きなじみがあると思いますが、「UXコンサルタント」はまだあまり聞きなじみのない方も多いのではないでしょうか。
通常コンサルタントは、ビジネス視点でクライアントの様々な課題を解決する助言をする役割を担います。
一方でUXコンサルタントは、ビジネス視点だけでなく「ユーザー視点」を取り入れてクライアントの課題改善を支援している点が特徴です。
真に企業の成長を支援するには、ユーザー視点を考慮することは欠かせません。企業側の都合をユーザーに押し付けるだけだと、短期的には成果は出るかもしれませんが、中長期的にはむしろ企業にとって不利益になるためです。
具体的な例として、サブスクサービスを解約する場面を考えてみましょう。そのサービスを解約したいと思ったとき、解約までの手続きが非常に複雑だったら解約することを諦めてしまいますよね。もしくは、何とか解約できたとしても「もうこのサービスは絶対使わない」と思ってしまうはずです。
その場合、企業はユーザーを失わずに済むため短期的には得をしますが、ユーザーのロイヤリティは大きく下がってしまい、またロイヤリティの下がったユーザーが周りに自身の体験を直接、またはSNS等で広めることで、その評判は周りに伝播していくため、長期的に見ると企業も損をしてしまうことになります。
ここでユーザー視点に立って解約手続きを簡単にすると、解約したいと思ったユーザーがすぐに解約できるため、短期的には企業の利益は下がってしまうかもしれません。
ですが、ユーザーのロイヤリティは保たれるので再びサービスを契約したいと思った際の心理的障壁が低くなったり、知り合いにサービスを勧めたりする可能性は高まります。よって、中長期的に見ると企業にとっても良い結果を生むと考えられます。
このように、ビジネス視点とユーザー視点は一見相反するものに感じるかもしれませんが、実は双方は密接に関連しており、ユーザー視点での体験価値を高めることは長期的なビジネスの成長にもつながるのです。
コンサルティングにユーザー視点を取り入れる意義はこういった理由のためです。
私たちはUXコンサルタントとして、UXを出発点としてクライアントのビジネス成長を支援しています。次章では、UXになじみのないクライアントと関わる際に意識していることをご紹介します。
クライアントとの関わりで意識していること
UXになじみのないクライアントにいきなりUXの大切さを説いても、なかなか簡単には受け入れていただけないかもしれません。
そんな時には、まず自分自身がクライアントの立場に立って考えることが大切です。我々がクライアントと関わる際に意識していることは3つあります。
①UXの専門用語を極力使わないこと
私たちが普段当たり前に使っている用語(例:KA法※1、KJ法※2)でも、それを知らないクライアントにとってはUX自体に抵抗を感じる原因になりえます。
そのため、クライアントとの会話の場面では、専門用語の使用はできるだけ避け、一般的な言葉を用いて理解を促すことが大切です。
②対話を繰り返すこと
ユーザーへの提供価値や方針についてクライアントに提示した際「それはすでに取り組んでいます」と返されることもあります。しかし、対話を繰り返していくうちに「実は今までやれていなかった!」とクライアント自身が新たな気付きを得ることがあります。
クライアントに気付きを促すことは、UXコンサルティングの成果の一つです。一回の会話で納得するのではなく、「本当にそうなのか?」という問いを常に持ち続けて対話を繰り返すことを我々は意識しています。
③中長期的な目線を示すこと
先述のサブスクの例のように、UX改善によるユーザーのメリットのみを提示した場合だと「むしろ企業にとってはマイナスなのではないか?」と抵抗感を持たれることもあり得ます。
しかし、ユーザー目線でのサービス改善によって短期的には企業の利益が下がっても、中長期的には企業にとってもメリットになるはずです。そういった視点をこちらから提供することで、クライアントのUX改善に取り組むモチベーション向上をサポートしています。
(KA法を初心者が理解・実践するための研究、浅野 志帆/安藤 昌也/赤澤 智津子、2016)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssd/63/0/63_229/_pdf/-char/ja
http://www.ritsumei.ac.jp/~yamai/kj.htm
おわりに
UXおよび人間中心設計はあくまでも手段のひとつであるため、それらをクライアント組織に浸透させることがゴールではありません。
それらの手法を使ってユーザーの満足度をより高めるためには何ができるかということを考え続ける必要があります。
また、UX改善は短期間で達成できるものではないため、中長期的な取り組みが必要です。
じっくりクライアントとの信頼関係を築きながら対話を繰り返し、ビジネス・ユーザー双方にとっての最大価値を提供するときに、UXコンサルタントとしてのプロフェッショナルが光ります。
インタビュイープロフィール
川野義則(CX/UXデザイン事業部)
IT系市場調査会社、デジタルマーケティング支援会社等を経て、電通デジタル入社。通信、製薬、金融・保険、消費財メーカーを中心に、定量/定性問わずUXリサーチ(設計・実行・分析)およびワークショップ設計・ファシリテーション、策定プランの体験設計・実行コンサルティング業務に従事。 HCD-Net認定 人間中心設計専門家。
亀和田慧太(CX/UXデザイン事業部)
銀行系SIer、デザインコンサルティング会社を経て電通デジタル参画。 金融・保険・通信・住宅・化粧品・製造メーカー等を中心に、各種UXリサーチや、サービスデザイン、UX/UIデザイン、業務改革などに従事。 徹底的なリサーチにより、顧客インサイトを紐解きながら、サービス開発、或いはデジタルプロダクトのUI設計に落とし込んでいくことを得意とする。 HCD-Net認定 人間中心設計専門家。
出典・参考URL
https://www.slideshare.net/masaya0730/iso92412102010
https://webtan.impress.co.jp/e/2011/12/20/11817#:~:text=%E3%80%8C%E4%BA%BA%E9%96%93%E4%B8%AD%E5%BF%83%E8%A8%AD%E8%A8%88%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF,%E5%A7%8B%E3%82%81%E3%81%9F%E5%B9%B4%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
https://www.hcdnet.org/certified/
濱藤柚香子
DXディレクション事業部
大学では乳幼児の発達心理を専攻。サークルで企業協賛を担当したことをきっかけにデジタルマーケティングに興味を持ち、2020年に電通デジタル入社。ユーザー起点でのサイトディレクションや調査・ワークショップ設計業務を行っている。
※所属は記事公開当時のものです。
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