2021.08.02
オンラインコミュニケーションを科学する
変化し続けるコミュニケーション
withコロナ時代、コミュニケーションは変化を余儀なくされています。
リアルで会い、表現し、”何か”を察するというような、いままで通りのコミュニケーションができなくなっているのです。
この時代の流れに合わせて、オンラインならではの特性を活かしたコミュニケーションサービスが多様に誕生し、流行しています。
本記事は、コミュニケーションを構成する要素を再解釈し、現在流行しているコミュニケーションサービスを紐解き、新たなコミュニケーションサービスを開発する際のヒントとすることを目的とします。
オンラインコミュニケーションに超臨場感は必要か
「コミュニケーション」は、社会生活を営む人々の間で行われる知覚・感情・思考などの情報の送受信であると定義されています。
それでは、オンラインでコミュニケーションを提供する、ツールやサービスは、リアル環境と同様に、人々(=ユーザ)を存在させ、情報のやり取りを行える、これだけを担保すれば良いのでしょうか。
否、それらを機能的に担保するだけでは、ユーザはコミュニケーションを心地良くすることができず、結果、愛され続けるサービスにはなりません。
なぜならば、
情報はサービスを介することによって、圧縮・解読されるため、伝達がリアル環境より劣化する
(ノイズが入る&欠落するため、リアル同様の情報交換は不可能)
人々はリアル環境でのコミュニケーションに対しても「不自由さ」を感じている
(超臨場感を提供するだけでは、コミュニケーションにおける不自由さは解消されない)
からです。
この2点の前提条件を認識した上で、オンラインならではの価値を正しく理解し、リアル環境で感じる不自由さを解消させたものこそが、心地良いコミュニケーションを提供するサービスだと言えるのではないでしょうか。
今回は、心地良いコミュニケーションを特徴的に提供している「Clubhouse(クラブハウス)」を例に、オンラインならではの価値をどのようにサービスに活かしているのかを見ていきます。
機械論的アプローチから見る
ここでは、コミュニケーションにおいて情報の発信、記号化、受信、解読の流れがどのようになっているか機械論的に紐解いていきます。
シャノンとウィーバーによるコミュニケーションモデル(1949)では、送信する情報は「言語情報」「非言語情報」の2つに大別され、受信する知覚は「聴覚」「視覚」であると定義されています。
そこでやり取りされる情報をさらに分解すると音声、テキスト、しぐさ、表情、視線の5つであると言えます。
この中で、Clubhouseが要素として取り入れているのは「音声」のみです。
超臨場感、すなわち”リアル”に近い体験こそが心地良いコミュニケーションであると定義づけるのであれば、これらの5つ要素すべてを提供すべきだと言えます。
しかし、Clubhouseはただ1つ「音声」だけを採用し、それに特化したサービス設計を行っています。
デジタルならではの価値1:知覚を分解することができる。
情報が溢れ続ける現代において、サービスは知覚すべてを必要とするものから、様々なサービスが共存できる=知覚を分解し、特化させたサービスが誕生しています。
例)
ゲームをしながら、電話をする。 → 視覚はゲームを捉え、聴覚は友人の会話に傾聴する
掃除をしながら、本を読む。 → 視覚は部屋の汚れを捉え、聴覚で本から知識を得る(オーディオ・ブック)
知覚を分解したサービスを提供することで、ユーザはそれぞれの知覚を多目的に活用することができます。
Clubhouseは音声だけのコミュニケーションにすることによって、何かをしながら、当該サービスを利用できるというという優位点を実現し、当初掲げていた”雑談を誘発する”や”排他的ラジオ”というコンセプトをUXとして提供しています。
また、サービス提供者も知覚を特化させることにより、開発リソースを最大限そこに投下することができるため、サービスのコンセプトを実現しやすくなるという利点もあります。(Clubhouseはローンチ当初のエンジニアは3人。3人でこのサービスを実装したというのだから驚きを隠せません。)
心理学的アプローチからみる
ここでは、コミュニケーションにおいて、単純な情報の送受信以外に、心理的な要素や、社会的な要素がどのように関与しているのかを中心に紐解いていきます。
ソーシャルスキル生起過程モデルによると、個人は、相手の反応を解読し、それに応じて対人目標と対人反応を決定し、自己の感情を統制した上で、適切かつ効果的な対人反応を実行します。
そして、その一連の行動には、社会的スキーマが密接に関係していると唱えられています。
Clubhouseでは、この5つの要素をUI上で表現し、とっつきやすく、愛され続けるサービスを実現しています。
デジタルならではの価値2:充実していくプロフィールにより実体性を増す
Clubhouseのプロフィール画面は、一見すると、SNSサービスで”よく見るそれのように思えますが、コミュニケーションを活性化させるために、”オンライン”で足りないものを上手く補っています。
オンラインに足りないもの、それは”実体性”です。
実体性はアカウントに紐づく情報の解像度によって定義づけられ、それらは先述している、対人反応を実行するための5つの要素に整理することができます。
人格特性や自己認識は利用者個々人の記載に依存しますが、Clubhouseはサービスの特色である「所属しているクラブ」や「招待者」「フォロー/フォロワー」によって社会体役割や相互の関係性の要素を動的に表現しています。
これらの内容は常にアップデートされていき、サービスを使いこめば使いこむほど豊かになっていきます。リアルでは、明示化されることのない情報が蓄積され、このように表現されることによって、実体性に欠くオンラインでのコミュニケーションに、それをもたらすことができ、向き合う人に対して”リアル”を感じることができるからこそ、ウェルビーイングなコミュニケーションを生むと言えます。
デジタルならではの価値3:会話への参加、離脱のストレスを軽減するUI
ClubhouseはROOM(実際に音声会話が行われる場所)のつくり方にも工夫を凝らしています。
ユーザは参加時はROOMの参加者が事前にわかるため「自分が場違いではないか」「どのような会話がされていそうか」「会話の質は求めるものと合いそうか」などを判断することができます。退出時は「✌(ピースマーク)Leave quietely」で、静かに退出することができます。
これらの工夫によって、対人行動を実行するための情報がリッチになりユーザはストレスから解放され、ウェルビーイングなコミュニケーションを実現することができるのです。
オンラインコミュニケーションをモデル化する
今回Clubhouseを例に、コミュニケーションを構成する要素(モデル)と、それらをどのようにオンラインコミュニケーションサービスのUIUXとして実現するのかを紐解きました。
Clubhouseの例から分かるように、10の要素は全てを満たすことが絶対に必要、ということではなく、選択し、組み合わせを行うことで、サービスを特徴づけていくことが重要であり、それらのUXを通してユーザをウェルビーイングに導くことが、サービス提供者の使命であると言えるのではないでしょうか。
岡本静華
CX/UXデザイン事業部
コマース企業の会社設立経営後、同領域のコンサル業務を経て電通デジタルに入社。
事業戦略やマーケティング戦略から、UXに立脚したサービス開発、それらに伴うPoC業務など幅広い領域にPMOとして携わる。ユーザに愛され続けるサービスを生み出すための”ルール”を解明するべく日々、研究中!
※所属は記事公開当時のものです。
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