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2021.07.30

ニューノーマルにおける業界別トレンド#3【自動車】~CES2021より~

#イノベーション#グローバルトレンド#セミナーレポート

久保竜樹 久保竜樹

#1の記事(リンク)#2の記事(リンク)に引き続き、今回は自動車業界における今後のトレンドを紹介していきます。

サマリー(自動車)

2018年の「CASE、MaaS」、2020年の「Woven City(トヨタによる実証都市「コネクティッド・シティ」)」、「VISION-S(ソニーの電気自動車)」と業界内外に刺激を与える発表が続いた近年に対して、今年は予想を超える発表は無く、やや低調感は否めなかったです。自動車メーカーの傾向として(特に国内メーカーは)戦略的に参加を見送る年があるものの、今年に限っては急遽オンラインでの開催となった影響が大きかったと推察されます。

今回のレポートでは、そのような傾向にありながらも具体的なソリューションや技術をお披露目してくれたGMとMercedes-Benzに関して、私のこれまでの職務経験(自動車部品関連メーカーにて量産デザインから自動運転を始めとした先行的な事案のUX創出まで幅広く従事)をもとに、UI/UX視点での考察を交えレポートしていきたいと思います。

『Ultifi』『GMC Hummer EV』の紹介 ~GMの基調講演より~

EVオーナーのカスタマーエクスペリエンスPFサービス『Ultifi』

『Ultifi』とは、すべてのGM EV(電気自動車)オーナーに付与されるデジタルIDとスマートフォンアプリで構成されたサービスです。オーナーは『Ultifi』により、車両の状態管理やソフトウェアのアップデート、メンテナンス予約、充電管理、各種サポートの享受など、購入から所有のあらゆるタイミングで発生する車に関する管理や手続きをスマートフォンからいつでも簡単に行うことができるようになります。つまり、スマートフォンのアプリが重要な顧客接点となるということを意味します。

今日において、既にいくつかの主要メーカーはEV以外の車両で『Ultifi』のようなスマートフォンアプリをリリースしていますが、インターネットへの常時接続が前提となるEVではスマートフォンアプリを介した車とのリアルタイムコミュニケーションが明確な競争領域となると予測されるので、さらに一歩踏み込んだUXを提供し、オーナーとのリレーション強化を図る必要があると考えます。

具体的にはアプリを通して『信頼構築』『継続的に繋がる』『共感醸成』を行うことが重要であると考えます。

1つ目の『信頼構築』は、連携サービスを拡充し、(『Ultifi』のように)車に関するあらゆるサービスのハブとなることで、困りごとや相談ごとがあればアプリにさえアクセスすれば解決できるという安心感を担保し、アプリを通して信頼関係を構築していく、ということです。

2つ目の『継続的に繋がる』はリワードプログラムなどにより貢献と還元を見える化することで日常的にアプリへのアクセス頻度を高め、オーナーと繋がり続ける、ということです。

3つ目の『共感醸成』は、アプリを介して環境貢献などのソーシャルグッドのメッセージを届けることにより共感を醸成していく、ということです。

世の中の大きな動きとしてDXにシフトしていく中で、自動車においてもスマートフォンアプリのUXが車の体験価値に大きく影響を及ぼしてくることは明白です。その中で上記のような視点でスマートフォンアプリのUXを磨き込むことで、一歩抜きん出た価値提供が可能となると私は考えます。

GMC Hummer EV

ハマーEVは、クリーン且つ、圧倒的なトルクを有し、走行距離は350マイル(約560km)で、時速0マイルから60マイル(約100km)まで3秒で加速できるという高性能なピックアップトラックです。さらに、悪路モードではサスペンションを自動調整し車高を高くする機能や、4輪操舵によりカニのように斜め前への走行が可能な「CrabWalk(カニ歩き)」など特徴的な機能を搭載しているとのことです。

デザイン面では、直線と面を多用したシャープなデザインの内外装に加え、ディスプレイのGUI (Graphical User Interface) (※1)は最新のSFゲームを思わせるトーン&マナーで全体的に先進的なイメージでまとめられています。

Hummer EVの GUI。3Dやエフェクトを多用し、最新のゲームを思わせるテイストでまとめられている(公式twitterより引用)
Hummer EVの GUI。3Dやエフェクトを多用し、最新のゲームを思わせるテイストでまとめられている(公式twitterより引用)

これらのスペックやデザインの特筆すべき点は、「エコ/クリーン/スマート」といった従来のEVの価値観では無く、「パワフル」「ハイテク」「サイバー」といった、新しい価値観をEVにもたらそうとしている点です。グローバル規模でEV競争が激化していく中で、この価値観が今後どのように市場に影響を与えるか、引き続き注目していきたいと思います。

※1:コンピュータの表示・操作体系の分類の一つで、情報の表示に画像や図形を多用し、基礎的な操作の大半を直感的に行うことができるもの。

『ハイパースクリーン』『Travel Knowledge』の紹介 ~Mercedes-Benzの基調講演より~

全面ディスプレイで覆われたインパネ『MBUXハイパースクリーン』

『MBUXハイパースクリーン』は運転席から助手席の前までを覆う巨大なディスプレイ型のインパネで、人工知能や対話型AIを搭載しており、ナビゲーションやオーディオをはじめとした各種操作を直感的かつ簡単に可能にし、助手席前では独立してエンタメコンテンツの視聴ができ、ドライバーの覗き見は視線検知により防ぐというものです。

(公式twitterより引用)
(公式twitterより引用)

また、見た目のインパクトにとどまらずUIも工夫されており、全面ディスプレイとなれば、操作に関しては複雑化する印象を受けますが「ゼロレイヤー」というUI思想により、運転中のメインタスクは、階層操作を必要とせず表層の操作のみで完結できるように工夫されています。さらに、人工知能による個人最適化と補助により、操作の手間を省く仕組みまで搭載されているようです。これは、見た目のインパクトと使い易さを兼ね備えた、まさに次世代のインパネと言えるのではないでしょうか。

対話型AIによる周辺施設情報検索システム『Travel Knowledge』

『MBUXハイパースクリーン 』の一機能ですが、UXの視点で特筆すべき点があるので個別に紹介したいと思います。

『Travel Knowledge』は、対話型AIとのやりとりにより周辺施設の情報をドライバーに提供するというものです。特筆すべき点は、AIに周辺施設を尋ねる際に「その建物」「右側のビル」など、曖昧な指示での応対が可能な点にあります。周辺の知らない施設情報を知りたい場合、当然その建物を形容し難いことになります。その場合、例えば「右側の大きくて黒いビルは何?」といった、特徴をいくつか述べて対象を識別させるという仕様も考えられますが、UXとして不自然である上に運転中の状況下において施設をじっくりと眺め特徴点を正しく発話する必要があるのは危険を伴い得策ではありません。一方、曖昧に尋ねることが出来れば運転への集中を疎外されることもなく安全で、なにより気軽です。

車のUIは、安全への配慮に伴い仕様の制約が厳しく複雑で煩雑な傾向にありますが『Travel Knowledge』から、あるべき車のUIの有用な示唆が得られるのではないでしょうか。

おわりに

CESの展示を通して、電動化は車のUXそのものを大きく変化させるということを改めて実感することができました。今年はコロナ禍の影響で出展メーカーが偏っていたこともあり、欧米メーカーのUX事例紹介が中心となってしまいましたが、日本メーカーや出展を見送った中国メーカーも含め、引き続きUX視点でウォッチし、レポートしていきたいと思います。

久保竜樹

久保竜樹

CXクリエーティブ事業部

自動車関連Tier 1メーカーにて自社やOEMのカーナビインターフェイス、自動運転をはじめとした先行的な事案のUI/UXデザイナーの経験を経て2020年電通デジタル入社。入社後は通信キャリアの新サービスやモバイルオーダーサービス、近未来の車の購買体験などのCX設計リード、実行を担当。

※所属は記事公開当時のものです。

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