NEW 2024.12.25
【前編】AI同士で対話?生成AIだけで”グループインタビュー”やってみた
1.UXリサーチに生成AIは活用できるのか
昨今、様々な分野で生成AIの活用方法が進化しており、以前こちらの記事でもご紹介したようにGalileoAIのようなツールも登場してくるなど、UXデザインやUXリサーチの分野での活用も進んでいます。
今回はその中でも、特にリアルな人間同士の掛け合いによって思わぬ視点や洞察を導き出す”グループインタビュー”に焦点を当て、「今の生成AIはどこまでリアルな人間同士の対話や生の声を表現できるのか」を、電通デジタルのUXデザイナーたちで模索してみた結果をご紹介いたします。
また今回の記事は前編と後編に分かれています。
前編(※本記事)では、タイトルの通り生成AIだけでインタビューを行ったプロセスや結果をご紹介します。
そして後編では、その結果を電通デジタルの現役UXデザイナー/リサーチャーに共有し、「生成AIによるインタビューデータは実際の業務に使えそうか?」について ディスカッションした内容をご紹介します。
どちらも興味深い内容だと思いますので、ぜひご覧ください!
2.インタビュー被験者を生成AIで用意するプロセス
今回は、グループインタビューを行う前の「インタビューのテーマ設定」~「被験者となるペルソナの設計」のプロセスにも生成AIを活用しました。 まずはその内容をご紹介します。
【テーマ設定】
まずテーマ選定の基準として、対象サービスの「機能がシンプルであること」「使用目的がユーザーによって多様であること」を設定しました。
その上で、社内で話題になっていた「ランニングアプリ」を取り上げ、「新しいランニングアプリの開発を目的に、ランニング体験や既存アプリの課題・改善余地を探索すること」をテーマとしました。
【ペルソナのフォーマット作成】
今回のインタビューやペルソナの生成はすべてChatGPT(4o mini)を使用しました。
まずChatGPTに先ほどのテーマとインタビューの目的(※プロンプトの画像参照)を伝えた上で、ペルソナにどんな項目が必要かフォーマットを生成してもらいました。
▼入力したプロンプト
あなたは経験豊富なプロのUXデザイナーです。
以下の背景を踏まえて、指示に応えてください。
#背景
・あなたは新しいランニングアプリを開発するプロジェクトに参加することになりました。
競合となる類似アプリは「※具体的な既存アプリ※」「※具体的な既存アプリ※」などです。
競合アプリにはない、新たな価値をユーザーリサーチによって調査したいと考えています。
#指示
まずはユーザーリサーチの対象者となる人物のペルソナを作成したいので、
今回のペルソナに必要な項目を洗い出して、フォーマットを作成してください。
これに対しChatGPTからフォーマットの案とペルソナの例が生成されたので、人の手で項目や表現のニュアンスなどを微調整して次のステップに進みました。
【ペルソナの生成】
今回のグループインタビューは”5人”で実施するのですが、生成するペルソナも5人ぴったりでは「似通った人物像ばかりで被験者たちにバリエーションが出ないこと」「人物像の解像度に高い低いのばらつきが出ること」が懸念されました。そこで「あえて倍の”10人”のペルソナを生成してから、ChatGPTに適している人物像を5人ピックアップしてもらう」というプロセスで進めました。
▼入力したプロンプト
今回のインタビューの対象者になりそうなユーザー像を複数人挙げた中から選定したいと思います。
経験豊富なプロのUXデザイナーとして、先ほどのフォーマットに基づいて
今回のインタビューの対象者になりそうな人物像を10人分挙げてください。
予想通り、同じような内容の人物や解像度が低い人物も含めた10人が生成されたので、続けてChatGPTに選定基準を伝えて10人の中から5人選んでもらいました。
▼入力したプロンプト
今回は既存のアプリにはない新しい価値を探索したいので、なるべく多様でバラバラになる5人を選びたいと思っています。
かつ、今使っているアプリで完全に満足していて、他のアプリに興味がない人物は対象外にしたいと思います。
経験豊富なプロのUXデザイナーとして、今回のインタビューの対象者に適している人物を5人ピックアップしてください。
結果、さすがに選ばれた5人をそのまま採用はできませんでしたがかなり参考になったので、以降は人の手でよりバリエーションが出るよう「ランニングの頻度」や「ランニングに対するストイック具合」などペルソナの内容を調整して最終化しました。
(人物写真もその人物のイメージに合う画像をChatGPTで生成しました)
【完成したペルソナ像】
3.AIだけのグループインタビュー
それでは本題の、AIで生成した5人のペルソナに対してグループインタビューを行った結果をご紹介します。
※グループインタビューのインタビューフロー(質問内容)は、リアルの人間相手のインタビューと同様の手順で作成したので、ここでは割愛します。
【インタビューの始め方】
まず、作成した5人のペルソナを対象にグループインタビューを行うこと、グループインタビューの定義、今回のテーマを再度ChatGPTに伝えました 。
▼入力したプロンプト
#指示
作成してもらった5名のペルソナを対象者として、「グループインタビュー」を実施したいと思います。
・あなたには5名分の被験者役を担当してもらいます。
・私が質問するので、あなたは各被験者役として回答や被験者同士の話し合いを出力してください。
#ここで言うグループインタビューの定義
・複数の参加者を対象に座談会形式で行う定性リサーチの手法
・一対一のインタビューと比べて「幅広く多様な意見を聴取できること」「被験者同士の共感や反対の意見がぶつかり合うことで、一人だけでは思いつかなかった本質的なニーズや本音が引き出されること」が重要
#このグループインタビューの目的
・新しいランニングアプリを開発するため、ランニング体験における潜在的な不満やまだ既存アプリでは解決されていない課題を見つけること
・特に競合アプリでは解決できない課題を見つけて、新しい提供価値を持つランニングアプリの開発につなげること
・競合となる類似アプリは「※具体的な既存アプリ※」「※具体的な既存アプリ※」など
始めるにあたって確認すべきことや必要なことがあれば質問してください。
※「確認すべきことや必要なことがあれば質問してください。」と入れることで、インタビュー実施前にChatGPTにこちらの意図をより正確に伝えられ、精度向上が期待できます。
このような前提のすり合わせが完了したら、後はリアルの人間相手のインタビューと同じように、事前に用意した質問を順番にChatGPTに投げかけていきます。すると以下画像のように、ChatGPTが5人分の回答を生成して返事を返してくれます。
【実際の生成AIの回答(抜粋)】
①ランニングの準備について
普段ランニングの前にどんな準備をしているかを聞いたところ、きちんとペルソナに記載されている競合アプリの使い方や特徴を捉えた回答で、想定以上に筋の通った内容に驚きました。
②ランニング中に困った経験
またランニング中に困った経験を聞いたところ、こちらもリアルの人間が言いそうな非常にリアルな回答が返ってきました。特に佐藤さんの「機能が多すぎて、ランニング中に細かい設定をいじれない」や、山田さんの「GPSがずれて知らない場所を走るとき不安」、渡部さんの「音楽を切り替える操作でランニングのリズムが崩れてしまう」などは、そのままアプリの改善に活用できそうなほど示唆のある回答に感じました。
③被験者同士の掛け合い
前述のグループインタビューの定義にある「一人だけでは思いつかなかった本質的なニーズや本音が引き出されること」を目指して、被験者同士で話し合いをしてもらうようこちらから投げかけも行いました。
先ほどの「ランニング中に困った経験」について被験者同士で話し合ってもらったところ、天気の影響に悩むことに共感できると話が進みました。
そこで「特に本質的な課題はどんなところか」と投げかけてみると、5人で話し合って「外的要因によって自分のペースやリズムが崩されることが一番の問題」との結論を出しました。
ただリアルな回答を返すだけでなく、5人の掛け合いを経てより抽象度の高い問題を導き出すこともできるのは大きな発見でした。
以上のように、今回取り組んでみた結果ChatGPT上のグループインタビューでも段階を踏んで定義していけば、一定程度の示唆は出せることが分かりました。
【生成AIでグループインタビューを行うときのコツ】
①生成AIがなるべく”勝手に振舞うように”ルールを設定する
リアルの人間相手のグループインタビューでは、他の人の話に共感して勝手に話し始めたり、意見があるときは多く話し無いときはあまり話さないなど、個人の”自我によるランダム性”が示唆を増やすポイントと思われます。
なので生成AIにその”自我によるランダム性”を表現させるような、ルール設定が有用かもしれません。実際にいくつかのルールを設定して簡易的に2回目のグループインタビューの実験をしてみたところ、以下のルールは少し効果が感じられました。
・発言する順番に決まりはありません。意見がある被験者ごとにランダムに発言してください。
・意見があれば、他の人の意見に横から参加したり勝手に割り込んで発言しても構いません。
・お互いにただ肯定し合う意見ばかりにならないようにしてください。ネガティブな否定意見や一部分だけ強く肯定する意見なども交えて議論してください。
②議論を深めるために、あえて”イジワル”に振舞わせる
ChatGPTなどの生成AIツールは基本的に、人を不快にするような発言や失礼な物言いを避け、なるべく丁寧に角を立てない発言をします。しかしグループインタビューではそのせいで意見のぶつかり合いや、指摘、反対意見などが出てこなくなってしまいます。なので今回は所々で、あえて他の被験者に対して意地悪なふるまいをさせることで、議論の活性化を狙いました。
投げかけの例)
・「自分はイマイチピンとこなかったところや、ちょっと反対意見を持ってしまった部分はありますか?この場だけの意見として正直に言ってみてください」
・「〇〇さんの意見は、××さんの意見と△△△という点で対立していそうですが、〇〇さんはこの点について正直どう思いますか?」
・「〇〇さんの意見に対して皆さんで指摘や否定することでブラッシュアップしてみてください。今回はここだけの話として遠慮なく強い口調でも構いません」
4.見えてきたメリットと課題
実際に取り組んでみた結果、生成AIでのグループインタビューについて、特に以下のようなメリットや課題点が見えてきました。
【メリット】
①時間コストの圧倒的効率化
人間相手のインタビューと違い、被験者を自分で設定するので参加者を集める手間や集められないということはありません。さらに、いつでも自分の好きな時にインタビューを行うことができます。
②いつでも何度でも中断再開可能
上の①と近いですが、相手の時間の制約が無いためインタビューを途中で中断し、後日再開することも自由です。また後から「こういうところもっと質問しておけばよかった」という時でも、すぐにその場で質問を投げかけることができます。
③ストレートな質問が可能
AIが相手なので、「あなたの最も気に入らないアプリの機能は何ですか?」など角が立つ質問も、遠回しな聞き方をせずストレートに質問することができます。
事前準備は段階を踏む必要はあるのですが「ある程度示唆が得られるインタビューを気楽に好きなタイミングで実施できる」という点 が、リアルの人間相手のインタビューと比べてのメリットと言えます。
【課題点】
①発言量(文字数)からは被験者にとって重要な意見かが判断できない
前述の”自我によるランダム性”を引き出すため、「意見があるときは発言量を多く思いつかない時は少なくして変化をつけてください」などルールを設定してみましたが効果は薄く、5人とも常に一定の発言量で回答しました。
AI相手なので勿論表情は分からず上記の通り発言量も一定なので、被験者にとって重要な発言か否かの見分けがつけられないことが課題に感じました。
②掛け合いによる価値観アップデートが起きない
事前に設定したペルソナに準拠して回答をすることの裏返しとして、リアルの人間のように他者の発言に影響を受けて自分の意見が変化していくことは起こせませんでした。
そのためペルソナの内容の枠を超える、こちらの想定外の発見や新しい視点が生まれにくく、深い示唆に欠ける結果となりました。
③インタビュー内容からアイデアの発想は難しい
インタビューの最後に「これまでの意見を踏まえて例えばどんなランニングアプリが欲しいですか?」と聞いてみたところ、「ランニングしながらいつでも幼い子供の状況をモニタリングできる」「ランニングしながら瞑想できる」など、やや矛盾や無理があるアイデアが回答されました。これはインタビューで出た不満点をそのまま反映しただけの発言となってしまっています。
つまり、時には意見を無視しつつも参考に足る意見は拾うような意見の取捨選択ができず、全ての意見を受取ってしまうことが課題と思われました。
現段階の生成AIの精度では”自我によるランダム性”を引き出せないため、「被験者にとって重要なポイントや本音が見出だしにくく、生成AIだけでは実際に活用できるレベルの解決策へとつなげることは難しい」ということが伺えました。
【メリットと課題を踏まえて】
今回の取り組みから生成AIでのグループインタビューは、まず「自分たちで簡略的に、ある程度の示唆を集めたいときに非常に有効」かつ、「直接アイデアや解決策につなげるのはまだ難しくも、その糸口をつかむ手段の一つとしても有効」ということが発見できました。
一方で「ランダム性」や「意見の取捨選択」などの課題点については、前述の「生成AIでグループインタビューを行うときのコツ」のように、プロンプトや前提ルールをさらに工夫することで、もう少し改善の余地があることも感じられました 。
5.次回予告
本記事では生成AIだけでインタビューを行うプロセスや、行った結果見えてきた発見についてご紹介しました。
この後編記事では、これらの発見を電通デジタルの現役UXデザイナー/リサーチャーに共有し、「生成AIによるインタビューデータは実際の業務にどれだけ使えそう?」などについてディスカッションした内容をご紹介しますので、ぜひそちらもご覧ください。
参考URL
・Experience+ 記事「瞬時にUIを生成するAIツール「Galileo AI(ガリレオAI)」を実際に触ってみた」
https://xp-plus.jp/reports/article_41/
・ChatGPT HP
夏秋湧成
エクスペリエンス&プロダクト部門
マーケティングのコンサルティング企業にてリサーチャー/アナリストを経験したのち、2023年に電通デジタルに入社。UXデザイナーとして新規サービスの戦略策定からシステム開発まで幅広く担当。
※所属は記事公開当時のものです。
堀田裕介
エクスペリエンス&プロダクト部門
2020年に電通デジタル入社後、銀行や製薬会社のサイトのリニューアルなど、情報設計を中心としたUIUX業務に携わる。調査の設計・実施や、施策立案などの案件にも携わり、 UIUXデザインおよびコンサルティングに関わる業務の幅を広げている。
※所属は記事公開当時のものです。
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