2022.12.05
ゆるく始まり、長くつながる 音声サービスのもたらす体験
コロナ禍において自宅で過ごす時間が増えたことを受け、生活者の音声サービスへの注目は急速に高まりました。
例えば、インターネットラジオサービスを提供するradikoでは、1人あたりの番組を聴く時間が伸びたことで、2020年2月で比較して同年6月には総利用時間が3割増加しています。(
また、音声サービスに対する関心の高まりは、一過性のものではないとみられています。デジタルインファクト社の調査によると、国内のデジタル音声広告の市場規模は、2021年時点の50億円から、2025年には420億円まで伸長するとされています。(
これらの背景から、実際に音声広告やポッドキャストの制作・配信に着手する企業・ブランドも増えています。
WebサイトやSNSといった多様なメディアを活用して一貫性のある顧客体験を届けるためには、各メディアの特徴を理解した上で適切に使い分ける、コンテンツを企画するといった姿勢が求められます。
本記事では、音声サービスがどのように発展してきたのか、他のメディアと異なり生活者に対してどのような体験を提供するのかについて紹介します。
音声サービスの発展と多様化
音声サービスの特徴を紹介するにあたって、音声サービスがどのように発展してきたのかと、それを踏まえてどのように分類されるのかを振り返ります。
まずメディアの歴史を振り返ると、世の中に流通する情報量は増加し続けてきたのに対して、情報収集・発信の手段は生活者の手間や時間を減らす方向に発達してきました。例えば情報収集・発信の手段は、印刷技術からラジオ・テレビ、パソコン、スマホへの発達を経て、現在は誰でも好きな時に好きな場所で、自分の手の中で情報を得られるようになりました。
そして音声サービスの普及は、私たちが画面にも縛られることなく情報収集できるようになることを意味します。音声配信サービスを提供する企業Voicyの代表緒方憲太郎氏は、人間の「楽に情報を得たい」という欲求が行きつく究極の形が「音声」であると指摘しています。(
では、音声を介した情報収集の手段は古くからラジオが存在しますが、近年普及する音声サービスにはどのような種類があり、それぞれどのように発展してきたのでしょうか。
主要な音声サービスは大きく4つに分類することができます。
1つ目のカテゴリは、インターネットラジオです。代表例としては、radikoやNHKラジオが挙げられます。アーカイブ機能により、生放送を聴き逃しても後から再生できる、気に入った放送を繰り返し聴くことができるといった点が従来のラジオと異なります。
2つ目のカテゴリは、Apple PodcastやSpotifyに代表されるポッドキャストです。音声データとして保存・公開されたコンテンツをいつでも聴くことができるサービスで、企業や文化人・芸能人が中心となって発信してきたラジオと異なり、コンテンツを発信する主体が企業・ブランドから一般のユーザーまで多岐に渡る点が特徴です。
3つ目のカテゴリは、音声配信サービスです。ポッドキャストのように誰でも配信できる機能を備えるだけでなく、聴き手から配信者にコメントやギフトを送る機能といったようにユーザー間の双方向のコミュニケーションが重視されています。国内ではVoicy、stand.fmといったサービスが該当します。
最後の4つ目のカテゴリは、ClubhouseやTwitterスペースに代表される音声SNSです。聴き手だった人が放送中に発信者側に切り替わるといったように、リアルタイムに参加者間でインタラクティブなコミュニケーションを取れる点が特徴です。
これらのカテゴリを踏まえると、近年注目を集める音声サービスは「双方向性」と「リアルタイム性」の2つの観点で機能を拡張する中で多様化してきたといえるでしょう。
それでは他のメディアと比較した際に、音声サービスを通じて生活者が得られる体験にはどのような特徴があるのでしょうか。今回は代表的な3つの特徴を紹介します。
1つ目は、「文章よりも発信者の意図や内面が伝わりやすい」という特徴です。
同じ言葉を発する場合でも発信者の声の高低や抑揚によって、真剣なのか場を和らげようとしているのかといった聴き手が受ける印象は大きく異なるでしょう。ブログやSNSでは伝わらない発信者本人の内面まで垣間見える点は、聴き手にとって音声サービスを利用する魅力といえます。
この特徴は、発信者にとってもコンテンツを制作する際の負担が減るという利点があります。例えば、企業が記事を発信する際は誤字脱字の確認など校正に時間をかける必要があります。一方で、音声として発信する際は発言に誤りがあった際でも会話内で自然に訂正できるため、発信者の心理的負担を抑えることができます。また視覚情報を編集する必要がないため、記事や動画と比較して発信に伴う労力は小さくなります。
2つ目は、「特定の発信者が運営するコンテンツに対して、長期にわたる関係を築きやすい」という特徴です。
これは1つ目の特徴に挙げた「発信者の意図・内面が伝わりやすい」ことに加えて、音声サービス内でコンテンツを探索する際の特徴も影響しています。WebサイトやSNSを閲覧する場面を想像すると、流すようにコンテンツを閲覧し、気になるものだけじっくり確認するといった行動をしたことがあるのではないでしょうか。しかし、音声サービスではあらゆるコンテンツを同時に体験する、スキップしながら気になる箇所のみ聴くといった行為は困難です。実際にコンテンツを一定時間聴いて、初めて本当に興味を持てる内容か否かを判断することができます。
お気に入りのコンテンツを探索する際に時間がかかるからこそ、一度自分の興味・関心に合致するコンテンツを聴くことが習慣化しやすいという特徴に結びつくといえるのではないでしょうか。
3つ目は、「コンテンツを聴くことに集中していなくとも、聴き手の印象には残りやすい」という特徴です。
情報収集のために他のメディアを利用する場面と決定的に異なる特徴として、音声サービスは何か他の作業をしながらでも利用できる(=ながら聴きができる)という点が挙げられます。この特徴は、パソコンやスマートフォンの画面に集中する時間も増えたコロナ禍において、音声サービスが普及するに至った一要因といえるでしょう。 イギリスの国営放送局BBCが実施した企業・ブランドが発信するポッドキャストに関する調査では、94%の参加者が家事や車の運転といった他の作業をしながらポッドキャストを聴いているという結果が出ました。
ながら聴きは、コンテンツに対して完全に集中を割いているわけではないため、一見聴き手の理解を妨げるように感じられるかもしれません。しかし、BBCの同調査によると、ながら聴きしている参加者の方が、エンゲージメント、情動強度(=心理学用語で、感情がどれくらい揺れ動いたかを示す尺度)、番組内容の長期記憶のいずれの指標においても優れた結果が得られました。
BBCは「脳内が常に働いている状態のため、重要/必要なメッセージがピンポイントで生活者に届きやすいこと」「コンテンツに対する認知負荷が低い状態のため、比較的長い時間聴き続けることができ、結果としてエンゲージメントも持続・向上しやすくなること」の2点から、この結果が得られたと主張しています。(
今回紹介した発展の流れや体験の特徴を総合すると、音声サービスは情報の発信者と受け手の間に存在していた壁を融かす特徴的なメディアであるといえるのではないでしょうか。
企業・ブランドは、広告のような一方通行のメッセージが伝わりにくくなりつつある中でも姿勢を発信することや、生活者との間で長期的な関係を築くことが求められています。そのような時代において音声サービスは、顧客体験の一部を構成する接点としての重要性を増し続けると考えられるでしょう。 出典・参考URL https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62802380Z10C20A8TJ1000/ 公開日:2020/8/20
公開日:2020/3/30
公開日:2019/9/24
音声サービスならではの体験
最後に
https://digitalinfact.com/topics/release/302
発売日:2021/6/19
https://www.bbc.co.uk/mediacentre/worldnews/2019/audio-activated
高野礼生
プロジェクトマネジメント事業部
2021年に電通デジタル入社後、通信会社のデジタルマーケティングの支援に従事。ソーシャルメディアの運用ディレクションや、WebサイトのUX改善に関わる業務を担当。
※所属は記事公開当時のものです。
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