2022.10.18
子育てインフルエンサーに聞く、子育てに見る「体験づくり」のヒント
出生率の低下、少子化の進行はいまや経済や労働市場に大きな影響を及ぼす社会課題となっています。
そんな中、SNSでは、おむつ替え動画シリーズなど、子育ての大変さをクスッと笑いに変える投稿を続けるインフルエンサーが注目を集めています。
総フォロワー数37万人、子育て中の20~40代から圧倒的な支持を得るインフルエンサー・木下ゆーきさんに、子育てにまつわる体験や、いま感じている課題について聞いてみました。
子育て中の親が感じる社会との隔絶、孤独…「離れているけど、一緒だよ」と伝えたい
木下さんがSNSでの発信を始めたのは、2018年の始めの頃。5歳の長男の子育てに奮闘していたさなかに、ニュースで知ったある事件がきっかけでした。
「生後11か月の3つ子の一人が亡くなった事件です。母親は初産で子育て経験もないのに、ほぼワンオペで3つ子を育てていたというのです。
僕自身、シングルファザーとして長男を育てていた経験があり、その大変さは身に染みてわかっていたので、もし同じような状況だったら普通では考えられない行動をとったかもしれない…そう思ったんです。
子育てに疲れ果ててしまった人がSNSを見て少しでも明るい気持ちになれないか、そう思って笑いを交えた投稿をやってみようと思いました」
2018年の年末、おむつ交換をヘアスタイリスト、テーマパークのキャスト、アパレル店員などに扮して行う木下さんの動画シリーズがTwitterで一躍注目を集めます。実際の子育て経験なくしてはできないナレーションがとても面白く、総再生数3,000万回を記録しました。
「子育てをしていると同年代と接する機会がなくなって、大人と会話したのが久々ということもよくあります。
核家族化が進んでいるため、困った時に助けてくれる親族や友人が近くにいない、そういう点は現代のさびしい部分ですよね。
でもその一方で、SNSやインターネットで、離れている誰かと体験を共有しあえます。
そこで僕は、自分と同じように子育てをがんばっている人に“離れているけど、一緒だよ”という思いを、SNSを通じて伝えていきたいと思ったのです。」
子どもの目線に立って一緒に体験することの重要性
2021年末に3番目の男の子が誕生し、現在、お子さんは10歳、3歳、0歳。木下さんの子育てはすでに10年目に突入しました。
「子どもって、とにかく好奇心旺盛で、やりたいこと、興味をもつものがすごくたくさん出てくるので、できるだけ多く体験させてあげたいと思っています。そして僕自身も、できるだけ子どもと一緒に体験するようにしています。
たとえば、駄菓子屋さんに行った時に、“好きなものを買っておいで”と外で待つこともできますが、一緒にお店に入って駄菓子を見ると、これ懐かしいな、爪楊枝にいっぱい刺して食べたなぁとか、子どもの頃の記憶がどんどんよみがえってきたりします。
それを話してあげたり、同じ体験をさせてあげたり。僕も一緒に体験することで、子どもに伝えられることも変わり、公園の帰りなども、“楽しかった?”、“楽しかったよ”だけでなく、“あの黄色の滑り台はガタガタして、めっちゃお尻が痛かったね”といった会話ができるようになります。」
子どもと同じ目線になって体験するのは、決して子どものためだけではなく、自分も楽しいから、と木下さん。
Twitterの投稿には、木下家のあわただしくも、笑いの絶えない日常があふれています。
「僕とは違って、子どもを遠巻きに見守るのが好きという親もいるし、写真を撮るのが楽しいという親もいます。
あまり子どものために、子どものためにとならずに、自分が楽な走り方で走り続ければいいのではないかと僕は思います。
子育ては短距離ではなく、かなりの長距離ですから無理は続きません。」
また、木下さんのアカウントには、子育ての日常的な悩みの相談やアイデアを求める声が多く寄せられます。
独特の発想で、子育てを楽しんでいる木下さんは、ユーザーにとって頼りになる先輩なのかもしれません。
「子どもの年齢によっても悩みは変わると思いますが、たとえば、イヤイヤ期の子どもは何を言っても真逆に答えてくるときがあります。
食べてといえば食べないし、座ってといったら意地でも座らないので、逆に、“食べちゃダメだよ、絶対だめだよ”というとすぐに食べてくれたり、“お父ちゃんがやるから絶対、片づけないでね、お父ちゃんが一番片づけたいから”というと、必死で片付けを始めてくれたり、奇跡的に上手くいくことがあります。
いずれにせよ、真っ向勝負はだめです。苦手な野菜を食べてほしい時に“にんじんも食べて”という方が直球で一番の近道に見えますけど、そう簡単にはいきません。
僕はそういう時、食材になりきります。“僕はニンジン、僕は食べられたくないんだ!食べないで、あーやめて”という方にもっていくと、すぐに食べてくれたりします。
自分の目線ではなく、子どもの目線になってワンステップ入れた方が上手くいくことに経験的に気づいてからは、言葉遣いは工夫するようになりましたね。」
子どもと同じ目線に立ったうえで、子どもの言動や行動の本質をくみ取った声かけをする、という工夫は、企業がユーザー体験を考える際のインサイト発見といった点にも通ずる部分がありそうです。
10年に渡る育児体験の中で、育児の環境に関する世の中の変化も感じるといいます。
「最近では、ファミレスやフードコートでも離乳食を対面であげられる椅子が設置されていたり、男性トイレにもおむつ替えコーナーができたり、環境が変わってきたとは思いますね。
でもその一方で、育児をする人の動線をほとんど考えてないなと感じる場面もまだまだあります。
たとえば、ショッピングモールの子ども向けカートが駐車場の店内入り口にはなく、正面玄関まで取りに行かないとならないのはとても面倒です。
また、動線とは異なりますが、注文した料理がテーブルに運ばれた直後に子どもがぐずり出して、ほとんど食べずに店を出ることもよくあります。
この問題は、回転寿司のように1皿ずつ注文し、食べた分だけ支払う仕組みなら解決します。回転寿司って、つくづくよくできたシステムだと思います」
たしかに、小さいお子さんのいる父母の食事はかなりあわただしいもの。木下さんの言葉からは、よりユーザー目線に立った体験づくりの重要性がうかがえます。
よい子育て体験はよい従業員体験から
木下さんは自分の体験をもとにした子育てエッセイ本も執筆しています。
2021年8月に出版された「#ほどほど育児」は、育児をテーマにした書籍としては異例の発売前、3刷重版となりました。
育児のしんどさを理解し、応援してくれるようなヒントを与えてくれる木下さんの言葉を求める人がたくさんいるのです。
「僕も子育てが楽しいか、大変かと問われれば、やはり大変の方が大きいです。
子育て世代の人たちに一番足りていないのは、心と時間の余裕だと思います。それがどうやったら手に入るのかというと、やっぱり仕事とお金の問題なんですよね。
経済的に余裕があれば仕事をセーブすることもできるし、外食や旅行も気軽にできて、時間と心に余裕が生まれると僕は考えます。
僕自身、かつては会社員だったので、旅行や外食、フルーツを買うことすら贅沢に感じる人がとても多いことをよく知っています。」
日本の社会や労働環境が抱える課題と子育てにおける課題は大きく関わっていると木下さんはいいます。
企業が子育て世代の課題解決に対して何か支援できることがあるのか、聞いてみました。
「最近は、子育てアプリなどもたくさん出てきて、授乳や排せつの記録が夫婦で共有できたり、おむつ替え台や授乳室の有無がわかるなど、いろいろ便利な技術やサービスが出てきて助かってはいます。
でも、子育ては依然として重労働で、その大変さを減らすことはできていません。
何かものすごく良いサービスやアプリが登場すれば、助かる部分もあるでしょうが、それを開発するために、たくさんの会社員が家庭を顧みず残業することになり、矛盾が生まれる…。
なので、企業が子育て支援のためにできることは、働いている従業員にしっかりと給与を払い、早く帰らせることが一番だと思います。
従業員の体験をよくするということは、新しい子育て体験を作り出すことにつながります。
これは、サービスやプロダクトを考える際に、ユーザー体験に加えて従業員体験を考えることでサービス全体の質を高められることと似ているのではないでしょうか。
「この4月から男性の育休取得推進が企業に義務付けられましたが、この制度によって、たとえば、男性社員が5日間育休をとりました、だからうちの会社は子育て支援が進んでいます…という話にならなければいいなと思います。
そういう形だけの支援でなく、子育ての大変さというのを管理職や経営層がしっかりとわかって、従業員のライフスタイルに対するアプローチをしかけていかないと、結局は子育てをしている従業員が疲弊するし、子どもの数も増えないと思うので。
これは企業の努力だけでは厳しいのかもしれません。
国と企業がお金を出して、子育て世代に心と時間の余裕を与えていくことが一番の解決だと思います。」
“よい従業員体験をつくることが、新しい子育て体験をつくり出すことにつながり、それによって世の中が変化していく“
顧客体験を考える上では、このようなマクロの視点がとても重要だと気づかされます。
子育てインフルエンサーの木下さんは、インタビューの最後に、もっと子育てを楽しめる未来を目指して様々なメディアへ活動を広げていきたいと語ってくれました。
木下ゆーき
子育てインフルエンサー
1989年3月9日生まれ。
SNS総フォロワー数37万人以上。
総再生回数約3,000万回のおむつ替え動画シリーズで一躍人気に。
子育てモノマネ動画など、その発想力と表現力でタレントや政治家など著名人にもファンが多い。
著書に『#ほどほど育児』(飛鳥新社)、『世界一楽しい子育てアイデア大全』(KADOKAWA)がある。
【Twitter】@kinoshitas0309
【Instagram】@kinoshitayuki_official /
※所属は記事公開当時のものです。
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