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2024.03.04

社会の構造的課題をUXデザインで解決に近づけるためのアプローチ~Google UXデザインプロフェッショナル認定の学びから~

#UXデザイン#コラム#ナレッジ・ノウハウ

noimage 田代理紗

私は、電通デジタルでUXデザイナーとして働く中で「社会の構造的課題をUXデザインで解決に近づける」ことに関心を持っています。 法律やルールなどの社会の仕組みや、人々の無意識のバイアスから、人種 / 性別 / 国籍などの属性や、障がいを持つことを理由として、日常生活や人生の重要な場面などで不利益を受けることがあります。
それを「社会の構造的課題」と見たとき、そんな機会を減らすために我々 UXデザイナーは何ができるのでしょうか。

Google UXデザイン プロフェッショナル認定では、全7コースを通じて、UXデザインのプロセスを学ぶことができます。特に、Googleの姿勢としてインクルーシブな視点を持つ重要性が繰り返し強調されます。

本記事では、「社会の構造的課題をUXデザインで解決に近づける」ためのアプローチについて、 Google UXデザイン プロフェッショナル認定で学んだことをベースに紐解いていきます。

「実際のユーザー」に目を向ける

Google UXデザイン プロフェッショナル認定では、「ユーザーファースト」を最重要ポイントとして「実際のユーザーは多種多様であることを理解し、その中で見落とされる人が生まれないようにデザインする」という考え方を学びました。

その考え方を踏まえて、まずは「ユーザーをどう捉えるか」を改めて見直してみました。
例えば、冷蔵庫のサイトを制作しましょう、となった時、その冷蔵庫を買う人はだれでしょうか?ペルソナを作るといったアプローチは一般的ですが、その際に、いわゆる「マイノリティ」と呼ばれる人のことを含めることは、あまり多くないのではないでしょうか。

しかし現実には、冷蔵庫を買う人の中には、車いすに日常的に乗って生活する人や、聴覚、視覚などに障がいがある人、日本語が読めない人…等、様々な背景や特性を持った人がいるはずです。

車いすに乗る人が明るい部屋の中でタブレット画面を見ています。
イメージ画像

「ユーザーファースト」のアプローチを理解し実践する

Google UXデザイン プロフェッショナル認定で学んだ中から、ユーザーファーストなアプローチを理解し、社会の構造的課題をUXデザインで解決するための ヒント を2つ取り上げます。
1つ目は、「ユーザーファーストのためのアプローチを正しく理解すること」、2つ目は、「ユーザーテストで多様な背景を持つ人々をリクルートすること」です。

①ユーザーファーストのためのアプローチを正しく理解する

「ユーザーファースト」と言っても、具体的にどのようなアプローチがあるのでしょうか?ここでは3つのアプローチを取り上げます。

1. ユニバーサルデザイン

”全ての人・状況”に対して有効なデザインを目指すアプローチです。「万人のためのソリューション」を提示する考え方です。

とはいえ、「誰でも使える」を目指したとしても、結局現実には「誰でも」から”見落とされる人”が出てきてしまうこともあり、万人に向けて作ったつもりが、特定の誰かしか使えない状況になってしまう課題を抱えています。
「フリーサイズ」が誰にでもフィットする服にはならないのと同じことですね。

2. インクルーシブデザイン

そこで出てきたのが、「インクルーシブデザイン」です。「誰でも」ではなく、特定の”よく見落とされるグループ”に向けてデザインするアプローチです。障がいや人種、経済状況、言語、ジェンダー等がそれに当たります。「”ある特定のグループに属する人々”に対して有効であることは、多くの人にも有益となる」という考え方が背景にあります。

とはいえ、デザインする上で目に見える範囲のグループにしかフォーカスを当てられないので、「見落とされるグループ」を選んでも、結局現実にはそれでもなお”見落とされる人”が出てきてしまう課題が残っています。

3.Equity(=公平)-focused design

その課題を踏まえた新しいコンセプトとして生まれたのが「Equity-focused design」です。日本語に訳すと、「公平性を中心に置いたデザイン」となるでしょう。
長期視点で考えたとき、プロダクトのデザインで”想定されなかった特定のグループ”のためにデザインするアプローチです。彼らをリフトアップすることで、「公平性」を担保していく考え方です。

なお、「公平」は「平等」とは異なる考え方です。同じものを平等に提供するのではなく、ひとりひとりに合ったサポートをすることで同じ結果を得られるようにすることが公平性で、「Equity-focused design」では、その「公平性」を重要視しています。

左側に「平等」の図、右側に「公平」の図があります。左側の「平等」の図では、壁の前に背の異なる3人が、同じ高さの踏み台に立っています。背の小さい人は、踏み台の高さが足りず、壁の向こう側を見ることができません。「平等」な支援では、個々人の違いによってサポートが不十分な人が生まれてしまうことを示しています。一方、右側の「公平」の図では、背の小さい人は高い踏み台を、背の高い人は低い踏み台の上に立っています。それぞれの必要に応じて踏み台が用意されているので、背の小さい人でも壁の向こう側を見ることが出来ています。「公平」な支援があれば、個々人の違いに応じて必要なサポートを受けられることを示しています。
平等と公平の違い

②ユーザーテストで多様な背景を持つ人々をリクルートする

ユーザーテストでは実際のユーザーを代表する人を選びます。 その中には「よく見落とされがちな人(marginalized people)」も含めて実直な意見を直接聞くべきである、と強調されます。

ただ、もし身体障がいがある方を対象にしたいがリクルートが難しいとき、代わりに 「日常的にアシスティブ・テクノロジー(Assistive Technology)*」を使っている人に話を聞く、というのも一つの手です。

*アシスティブ・テクノロジー:スクリーンリーダー / CC / スイッチデバイス / キーボードのみでの操作 / 拡大表示 など

黒いキーボードで画面操作を行っている手元を写しています。
キーボードでの画面操作のイメージ画像

UXデザイナーとして明日から出来ることを考えてみる

ここまで、「社会の構造的課題をUXデザインで解決に近づける」ためのアプローチについて、 Google UXデザイン プロフェッショナル認定で学んだことをベースに紐解いてきました。 ここで学んだことを実務で生かすために、UXデザイナーとして明日から取り組めることをまとめます。

まずは、「見落としているかもしれないユーザー属性」には、どんな人がいるのか、どんな体験をしているのかを知ることから始めてみましょう。
例えば、以下のようなアプローチが考えられます。

・ 障がいや人種、経済状況、言語、ジェンダーなど、”よく見落とされるグループ”に属する人たちに話を聞いたり、その人たちが書いた本を読んだりして情報を集めてみる
・街や現場に行って、サービスを実際にどんな人が使っているのかを観察してみる
・自分の一部の身体機能を制限してみて、その状態で操作してみる
・自分でアシスティブ・テクノロジーを使って操作してみる

他にも、我々が作るものが社会に与える影響を考え、以下のような取り組みを行うことも大切です。

・自分のバイアスに自覚的になる。バイアスについて学ぶ。(バイアスは誰もが持っており、その影響を最小限にするため)
・画像や表現においては、バイアスを強める(再生産する)ものは避ける
・ユーザーテストを行うときには、相手の状況にあった言葉遣い(呼称を含め)を心がけ、率直な意見を聞かせてもらえるようにする
・インタビューの際に”よく見落とされるグループ”に属する人のリクルートも意識してみる

おわりに

ここまで、UXデザイン業務に取り組む際に、社会の構造的課題を解決に近づけるためのアプローチを紹介しました。
本記事をきっかけに、「ユーザーファースト」という言葉を改めて捉えなおし、社会の構造的課題を解決に近づけるためのUXデザインのアプローチが広がることを期待しています。

参考URL

Google UXデザイン プロフェッショナル認定 | Coursera

https://ja.coursera.org/professional-certificates/google-ux-design

noimage

田代理紗

トランスフォーメーション部門

2019年、電通デジタルに入社。ウェブディレクター・UI/UXデザイナーとして従事。ユーザーテストやインタビューなどでユーザーの生の声を聞くことを大切にしながら、UI/UX起点でのサイト新規制作から改修、運用まで携わる。

※所属は記事公開当時のものです。

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