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2023.11.09

オフィス体験に見る、リアル空間のアフォーダンス

#UXデザイン#エクスペリエンスデザイン#コラム

濱藤柚香子 濱藤柚香子

はじめに

2022年4月、弊社の汐留オフィスがリニューアルされました。

新オフィスでは、「Real empowers us. リアルな世界が、私たちを強くする。」というコンセプトのもと、個人作業をしながらチームメンバーへの気軽な声かけや相談もできる「チームホーム」、ホワイトボードに考えをまとめながら集中してチーム作業ができる「ハックルーム」、ランダムな出会いの中での自然なコミュニケーションの発生を促す「ラウンジ」の主に3つの機能を実装してリアルならではの価値創造の場となるようにデザインを一新しました。

エントランス
エントランス


新オフィスに変わって1年半が経った今、従業員は今のオフィスをどのように活用し、どんな価値を見出しているのでしょうか。
出社頻度の異なる3人の社員に、それぞれのオフィスでの働き方を聞いてみました。

プロフィール
プロフィール

参考URL

・プレスリリース:次世代型新オフィス「汐留PORT」をスタート-リアルとリモートを融合させる新しい働き方「Performance Based Working」を提唱-(株式会社電通デジタル)

https://www.dentsudigital.co.jp/news/release/management/2022-0407-0019

・働く環境 ENVIRONMENT(株式会社電通デジタル)
https://www.dentsudigital.co.jp/careers/experienced/environment

出社/リモートワークのバランス

弊社では、「“Performance Based Working”~やるべき事を、やるべき時に、やるべき人が、やるべき所で~」という考え方を提唱しており、出社と在宅勤務の選択は基本的に社員自身に委ねられています。
そのため、出社頻度は人それぞれです。

上村玄(以下K)…出社頻度・低
「私はグループマネージャーを担っており、ミーティングが普段の業務の7~8割を占めています。
在宅の割合が高く、出社は月に2~3回程度です。

ミーティングが詰まっていることが多いので、移動時間などを考慮すると在宅の方が効率がいいように思える部分もあります。

セミナーやワークショップ、クライアント企業やチームメンバーと大切な話をする時など、温度感の高い会話をする場合に出社する事が多いです。

在宅勤務でも意図的にコミュニケーション時間を確保していますが、やはり対面で会った時の方が楽しいと感じます。」

福澤るり(以下F)…出社頻度・中
「出社頻度は週1~2回です。所属グループでの集まりが週に1回あるので、その際に出社しています。

それに加えて、週の初めに出社するようにしています。支度をしたり電車に乗ったりすることで軽く運動になり、目が覚めます。」

小坂真人(以下O)…出社頻度・高
「私も上村さんと同じくグループマネージャーで、週の半分以上は出社しています。

ミーティングは在宅でもいいと思いますが、少し余裕がある日や、作業時間が多い日などには積極的に出社して、全フロアを歩き回ってオフィスにいる人と交流しています。

ーフロアを歩き回る目的や、それによって得られるものはどういったものがありますか?

(O)
「”何もしない”時間を意図的に作ることで、何か生まれるのではないかと考えています。
実際にフロアで人と出会った際は、何も生まれないけれど面白い会話もあったり、チャットで相談しづらいことを相談してもらえたりすることもあります。」

8Fラウンジ
ラウンジ

―出社して得られるものは何ですか?

(F)
「私の場合はやはり気持ちの切り替えですね。週の初めは出社している人は少ないですが、それによってコミュニケーションが極端に不足しているとは特に感じていません。」

(O)
「出社してコミュニケーションを取りたい人、作業に集中したい人などそれぞれですよね。」

(K)
「私の場合は出社した際にリアルで話して楽しいと感じるので、コミュニケーションが大きいですね。とはいえ、在宅の時にコミュニケーションが不足しているとも感じていません。」

―フロアの使い分けはどのようにしていますか?
※コミュニケーションの活性化を重視した新フロアに加えて、集中して作業できる旧フロアも利用可能

(F)
「チームメンバーに会う確率が高く、モニターなども使いやすい新フロアにいることが多いです。
ミーティングや作業が多い日は、集中できる旧フロアで作業をしていること多 いです。」

(O)
「私はテンション先行で仕事のパフォーマンスが左右されるタイプなので、デザインがおしゃれでテンションが上がるという理由で新フロア、中でも景色のいい窓際を選んでいます。」

リニューアルしたオフィスの評価

出社頻度の異なる3人は、リニューアルしたオフィスをどのように評価しているのでしょうか。

(K)
「全体的に堅苦しくなくリラックスできる雰囲気で、観葉植物などの緑が多い点も気に入っています。

私は対面ミーティング目的での出社が多いのですが、様々な大きさのミーティングスペースもあり、壁のホワイトボードに描いて議論もできるところに便利さを感じています。 最近は他フロアの会議室を使う事も増えたので、予約に困ることも少なくなりました。」

(F)
「会議室に似ているハックルームというスペースは予約せずに使えるのが良いですよね。」

ハックルーム class=
ハックルーム

(F)
「デスクで作業している人には話しかけづらいなと思いますが、所属グループでの集まりや食事の際に話すことができるのでそこまで不満はありません。

最近は全社アナウンスで他に使えるフロアを周知されていましたが、それまでは他の階が使えることは知りませんでした。」 ※電通デジタルのフロア以外にも、一部ビル内で利用可能なフロアがある

(O)
「良くも悪くも、仕事と離れた無駄な空間がなく、”仕事をする空間”というイメージが強いなと思います。 7時間ずっと集中できるわけではないので、別のフロアにある卓球台のように気軽に気分転換ができるスペースがあるといいなと思います。

会議室の予約アプリは挙動が重く、正直使いにくいと感じています。毎日使うものなので、もう少しサクサク使えるといいなと思います。」

このように、設備面には一定満足している意見が多かった一方で、案内やアプリなどのソフト面に対する課題が上がりました。
オフィスの体験価値を上げるには、ハード面とソフト面の両方からのアプローチが必要といえます。

一番活用しているオフィスの機能についても聞いてみました。

(K)
「私はミーティングのために テレカンブースにこもっていることが多いです。」

(F)
「基本的にはモニターがあるテーブルを使っていて、眠くなる午後にはカウンター席で立って仕事をしています。」

(O)
「やはり、モニターがあるところはよく使います。コーヒーもよく飲むので、14階のカフェ※も利用しています。
いいマシンを使っているので美味しく、接客も心地いいので心が洗われます。」

ソロワークスペース class=
ソロワークスペース

オフィス体験から見るリアル空間のアフォーダンス

オフィスでの体験について意見交換する中で、今回のリニューアルではアフォーダンス※の観点での議論も生まれました。

※認知心理学における、環境が人間をはじめとする動物に対して与えている価値や意味。環境のさまざまな要素が動物に影響を与え、動物はその環境に適合した行動をとることを指す。米国の心理学者J=J=ギブソンがafford(英語で「与える、提供する」)から考案した造語。
[補説]デザインの分野においては、説明なしに使い方がわかり、人に自然な行動を促す工夫や効果を指す。

(O)
「固定アドレスの際は、空間を自分向けにアレンジするという使い方をしていました。フリーアドレスになりリニューアルされてからは、デザイン性が高く、用途によって空間を選べて楽しいなと思います。
“あるけど知らない”という機能や環境はもっとありそうなので、その点は課題に感じます。」

(F)
「自分のやりたい作業に合わせてオフィス内で環境を選ぶことができるし、在宅勤務がいい人にはそれを選ぶ余地も残されているので、その点は良いと思っています。

一方、入社したばかりの人だとオフィスの空間の使い分けや機能がわからないので、それがより伝わりやすいコミュニケーションがあるとよいなと思っています。」

(K)
「どこで何ができるか、目的の場所がどこにあるのか迷う事もあるので、フロアの案内がよりわかりやすくなるとよいなと思います。」

(O)
「空間の意図が明確だといいなと思いつつ、完全に明示してしまうと新しい使い方が生まれなくなってしまいますよね。」

リニューアルしたオフィスは、それぞれの空間が意図をもってデザインされていて、用途によって空間を使い分けられるという特長があります。一方で、用途を厳密に指定されることはないという余白も残っています。

プロダクトやWebのデザインでは、アフォーダンスの考慮によってユーザーに使い方を明示する設計が重視されていますが、リアル空間においては、アフォーダンスの中にもユーザー自身で空間を自由に解釈して工夫できる余地があることも体験価値を上げるポイントになるのではないでしょうか。

オフィスUXの向上ポイント

三者三様のオフィスの活用方法を通して、オフィスUXの向上につながる3つのポイントが見えてきました。

1:コミュニケーション促進・作業に集中できるなど、それぞれの目的に合った空間を設計する

2:空間の意図(≒アフォーダンス)を適切にユーザーに伝え、目的にあった空間にたどり着けるようにする

3:スペースの区切りや什器の配置を固めすぎず、ユーザーの自由な解釈で使い方をアレンジできる余地を設ける

視覚的なデザイン性や個別機能の改善にとどまらず、使い方に合わせてユーザーが自由にアレンジできるような柔軟性のあるオフィスをデザインすることで、従業員の体験価値の・モチベーションのさらなる向上につながるのではないでしょうか。

濱藤柚香子

濱藤柚香子

プロジェクトマネジメント事業部

2020年に電通デジタルに入社。 ユーザー起点でのサイトディレクションやユーザーテスト、アンケート設計・分析業務、ワークショップ設計・運営業務など幅広い支援業務に従事。

※所属は記事公開当時のものです。

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