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2021.12.23

リモートユーザーテストの精度を高める方法

#UXデザイン#エクスペリエンスデザイン#ナレッジ・ノウハウ

noimage 本間敏之

コロナ禍によって一気にメジャーとなったリモートユーザーテスト。電通デジタルでもユーザーテストは数多く実施していますが、現在そのほとんどがリモートで行われております。

リモートユーザーテストの内容に入る前にまず、電通デジタルのユーザーテストのスタンスをご紹介します。

電通デジタルのユーザーテストにおけるスタンス

本質を掴む

ユーザーテストはUXデザインのプロジェクトにおいてユーザーの生の声を聞き、仮説探索や仮説検証に繋げていくため非常に重要なワークフローのひとつです。

そのため、ここで方向性を見誤ってしまうとプロジェクトに大きな影響を及ぼします。

また、一方でユーザーの生の声を聞くものの、ユーザーは一般的に自分の求めているものを言語化はできないとも言われています。例えば、みんながガラケーを使っていた時代に次にどんな機能の携帯が欲しいかと聞いても、液晶画面全体で操作ができ、音楽プレーヤーと電話とカメラが一体となった携帯が欲しいとは言ってくれません。

大事なのは声よりも行動です。行動はユーザーが求めている本質を掴むことができます。

本質を引き出すため、バイアスがかからない環境作り、またユーザーの声よりも行動を重視し、本質を掴むことを大切にしています。

常に今以上のものを

調査は似ているものはあっても全く同じというものはありません。

調査要件、環境、被験者その時々で条件が変わるため、それに応じて課題や成果も多種多様な結果となります。

電通デジタルでは、各調査プロジェクトでそれらの課題や成果を社内でナレッジシェアしながら、成功した調査プロジェクトの再現性を高めるとともに今以上の成果を生み出すために常に改善を続けています。

さて、ここからリモートユーザーテストの話に戻ります。

リモート調査は、オフライン調査と比較すると、インタビュールームを用いないこともあり、費用がそれほどかからず、被験者も移動の手間などがないため便利です。また、リモート調査の場合、被験者が自宅でそばにモデレーターがいない状態で調査を受けることができるためリラックスしてテスト実施ができ、ホーソーン効果(※1)のリスクを軽減することができます。

一見良いこと尽くめのリモート調査ですが、プロトタイプを使用する場合は精巧に用意をしないと予期せぬ動作の際に柔軟な対応ができなくなったり、複雑なタスクを伴う場合などモデレーターのサポートが必要な調査はオフライン調査のほうが良い結果を得やすいです。

今後、コロナウィルスの感染が落ち着いた際には調査の目的や設計に応じて、リモートとオフラインを使い分けしていくことになるでしょう。

※1.ホーソーン効果:他者から期待されることで、自分の成果が向上する効果のこと。オフライン調査の場合は、リモート調査に比べてモデレーターが被験者のそばにいるため、良く見せようとバイアスがかかる恐れがある。

図1:リモート調査とオフライン調査の内容比較
図1:リモート調査とオフライン調査の内容比較

リモートユーザーテストの精度をあげる3つのポイント

ここで、これまで電通デジタルがリモートユーザーテストを実施してきた中でポイントとなる部分をご紹介します。

POINT1 調査環境の事前テストを入念に!

ひとつめは、調査環境の事前テストを入念にすることです。これはオフラインのときも気を付けるべきポイントではありますが、リモートの場合は、被験者の環境に頼ってしまう部分があるため、通信環境や使用端末のスペック・バージョン、zoomなどのアプリの操作などを事前にしっかりと確認する必要があります。

被験者が忙しそうな方でも調査前のやりとりで上記を把握するとともに、事前にテストをして問題ないかを確認しましょう。モデレーター側もツールを事前に理解し、どのデバイスのどこに操作ボタンがあるかを認識しておくと適切に被験者を誘導することができます。

また、様々なケースを想定してリスクヘッジを心掛けることが大切です。あるプロジェクトでは被験者の自宅にwifiがなく、月末のテストだったため、モバイル通信容量の契約上限を超えてしまい接続がうまくいかない、ということもありました。通信がどうしてもうまく行かない場合に、電話に切り替えることを事前に伝えていたため、その際は被験者と電話に切り替え、モニター側とグループ通話で繋げることで調査を続けることができましたが、あらゆる場面を想定しての対応マニュアルを用意して臨みましょう。

図2:リモート調査とオフライン調査の調査環境の違い
図2:リモート調査とオフライン調査の調査環境の違い

POINT2 オフライン環境に近づける

オフラインの調査では、調査ルームがあり、実査ルームには被験者とモデレーター、見学ルームには見学者が分かれて調査を行っていました。

一方リモート調査の場合は、同一の環境で見学者、モデレーター、被験者が入室し、モデレーターと被験者以外はカメラとビデオをオフにして実施するケースが多いのではないでしょうか。私たちも以前はこのように実施していました。

しかし、この方法ですと見学者が複数いる場合はどうしても被験者に対して無言の圧力がかかった状態で調査をすることになってしまいます。

そこで現在は、リモート調査をzoomで行っている場合は、teamsで見学ルームを設けるなどして、実査会場を別のオンラインツールで中継することによって、被験者に不要なプレッシャーがかからないように配慮をしています。

また、見学ルーム内で自由に発言することができるので、その時に確認したいポイントを漏らさずに調査をすることもできます。

さらに、実査終了後は見学ルーム内でそのまま振り返り(ラップアップ)をすることもできるので、オフライン調査と同様にその場ですぐに修正内容の確認などもスムーズにでき、オフライン調査の利点は残しつつ調査をすることができます。

図3:リモート調査における実施環境
図3:リモート調査における実施環境

POINT3 心理的安全性を高めるモデレート

相手の斜め前あたりに座ることで、心理的にも真正面よりも少し相手の緊張感を解き、親近感を覚えてもらいやすいということは聞いたことがあるかもしれません。これを応用してオフライン調査では斜め前にモデレーターが座ることが多いです。

では、リモート調査の場合は、どうでしょうか。モデレーターはリモートでの打ち合わせに慣れているかもしれませんが、被験者は場合によってはデジタルツールを用いての会話に慣れていない場合も往々にしてあります。

画面の構図、背景、光の当たり具合など被験者がよりリラックスできるように配慮できていますでしょうか。視覚の情報はもちろんのこと、普段よりも声色を明るくして聴覚として親近感を高めることも大切です。

対面よりも心理的安全性を高く維持しづらい環境だからこそ、当たり前のポイントを疎かにせず、細かいところまで配慮をして調査を行うことが必要です。

図4:リモート調査における画面の構図
図4:リモート調査における画面の構図

まとめ

調査でユーザーの行動を観察するにあたって、バイアス(被験者が普段と違う行動を行ってしまう原因)を除去し、自然な行動をしてもらうことは調査の基本です。

バイアスがかかってしまっているのならば、調査の準備が足りなかったことを意味します。

リモート調査は、オフライン調査よりも念入りに準備する必要がありますが、さまざまな利点も多く、今後も主流の調査手法として残っていくことでしょう。

電通デジタルでは、今後も試行錯誤を重ねていくことはもちろん、基本を疎かにせず、細かい被験者体験まで配慮することでより自然なユーザーの言動を引き出し、調査の質を高めていけるように努めていきます。

参考URL

Remote Usability Tests: Moderated and Unmoderated(Nielsen Norman Group)
https://www.nngroup.com/articles/remote-usability-tests/
What is remote usability testing?(UserTesting)

https://www.usertesting.com/blog/what-is-remote-usability-testing

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本間敏之

CX/UXデザイン事業部

Web制作会社にてUXコンサルタント兼PMとして設計から実装・開発案件を中心に従事。2016年に電通デジタルに入社後は、領域をサービスデザインからCRM/運用フェーズまで拡大。主にリサーチやUI/UX設計に強みを持ち、戦略策定~サービスの具現化、効果検証/運用支援まで一貫して担当。
人間中心設計専門家/米国PMI認定PMP/認定プロダクトオーナー(CSPO®)

※所属は記事公開当時のものです。

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