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2021.08.20

Hookモデルに当てはめるSDGsサービス

#エクスペリエンスデザイン#ケーススタディ#ナレッジ・ノウハウ

有川昂佑 有川昂佑

SDGsサービスの重要性

昨今、SDGsというワードを耳にする機会が多くなっているのではないでしょうか。SDGsとは「Sustainable Developmet Goals」の略で、貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動を呼びかける共通言語です。(出典1)。

この取り組みを進めるためには、生活者一人ひとりが当事者意識をもって日常的に取り組むことが欠かせません。これまでは経済・環境・社会は、重なる部分はありながらもそれぞれ独立するものとされていました。2010年代以前は、企業の経済活動は、「外部不経済(環境や社会に悪影響を与えるがその会社のコストには反映されない経済活動)」を無視することで、「短期的利益」を確保してきたのです。環境への負荷が自然の自浄作用で修復できる範囲内にあるうちは、それで経済が成り立っていました。しかし自然の自浄作用でカバーできない状況になり、環境への負荷が企業経営に必要なリソースを制限してしまいます。

サステナビリティの時代である2010年代以降は環境価値の上に社会価値が成り立ち、それらの価値が保証されてこそ経済価値が成立すると考えられています。さらに社会の風潮として環境・社会への影響が重要視されている中で環境・社会負荷を無視することは、企業として「悪者」のレッテルを生活者から貼られることになります。そのようなレッテルを貼られた企業は、もちろん経済価値を生み出すことだけでなく、一度貼られたレッテルを剝がすことも決して容易なことではありません。経済価値を得るには社会的価値を得ること、さらに社会的価値を得るためには環境価値を得ることが必要条件となっています。(出典2)。

日本国民のSDGs意識の現状と課題

SDGsサービスを提供し、環境価値・社会価値を得るためには、それを利用する人の現状と課題を捉えることは重要です。日本国民のSDGs意識はどのようになっているのでしょうか。

SDGsの認知率と当事者意識

2021年に株式会社電通が日本全国の10~70代の男女計1,400名を対象にSDGsに関する生活者調査をしており、その結果を見てみると、2021年では約半数の人がSDGsを少なくとも聞いたことがあると回答しています。2020年までと比較しても、急激にSDGsを認知している人が増えていることが分かります。しかし内容まで含めて知っていると回答した人は2021年でも約20%と低いままです。「SDGsを自分事化すること」が日本国民における課題と言えます。(出典3

株式会社電通:第4回「SDGsに関する生活者調査」
株式会社電通:第4回「SDGsに関する生活者調査」

生活者がSDGsに取り組む難しさ

生活者起点のリサーチ&マーケティング支援を行なうネオマーケティングが実施した調査結果によると、生活者は自分でSDGsに取り組むにあたって何をすればよいのか分からないと回答した人が約60%もいます。(出典4)先述したように当事者意識を持っていないこともありますが、国や企業が大きくSDGsという目標を掲げていても、生活者は何をするべきか、というところまで伝えきれていないのではないでしょうか。

株式会社ネオマーケティング:「全国20歳~69歳の男女1000人に聞いた「SDGs個人での取り組みに関する調査」」
株式会社ネオマーケティング:「全国20歳~69歳の男女1000人に聞いた「SDGs個人での取り組みに関する調査」」

Hookモデルに当てはめたSDGsサービス

上記のような日本人に当事者意識を持って、日常的に取り組んでもらえるようなサービスにするためにはどのようなことが必要なのでしょうか?

今回は、サービス利用の習慣化の仕組みを説明している『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』の著者である、ニール・イヤール氏が提唱した「Hookモデル」を基に説明します。Hookモデルとは、ユーザがサービス・製品に対して魅力を感じ利用し始めるときから、その利用が習慣化していくまでのプロセスを描いたもので、「Trigger(きっかけ)」「Action(行動)」「Variable Reward(報酬)」「Investment(投資)」の4つの要素から構成されています。

➀「Trigger」

サービスの利用を促すものです。人のニーズに訴求する内的トリガーと、そのニーズを満たすために第一歩としての行動となる外的トリガーの2種類があります。

②「Action」

そして第一歩を踏み出した先の「Action」とは後の「Reward」を得るために取ってもらう行動のことです。カンタンに取り組めることが、ユーザに使い込んでもらうために重要です。

③「Variable Reward」

その結果、ユーザが得られるのが「Variable Reward」であり、どの行動によってどのくらい報酬を得られるのかが予測できないほど、ユーザの興味が持続して習慣的に取り組んでもらえます。

④「Investment」

報酬を得たことで次に重要なのが「Investment」であり、ユーザがサービスに対して何らかの行動・労力を行うことです。ユーザは自身が行った労力に対して新たなニーズを抱くようになり、新たな内的トリガーに繋がります。そうしてまた「Trigger」「Action」とユーザは辿っていくことでサービスを習慣的に利用するようになるのです。

Hookモデル
Hookモデル

このHookモデルにSDGsサービスを当てはめてみます。

「Trigger」のうち、内的トリガーとなるのは「ユーザが自身の社会貢献度を知ろうとする」ことです。生活者が当事者としてSDGsに取り組むためには、実際に自分がどれほど貢献しているのかが分かることがポイントとなります。その指標として例に挙げられるのが、環境省も重視している「カーボンフットプリント」です。私たちが利用するほとんどのサービス・製品は温室効果ガスを排出しています。「カーボンフットプリント」とはサービス・製品を利用することによって排出された温室効果ガスをCO2排出量に数値化したものであり、自身の行動・購買などによってどれほどのCO2が排出されたのか、もしくは通常排出されるはずであったCO2をどれほど削減できたのかを指標化できます。(出典5)このように「ユーザ自身がどれほど社会に貢献しているのか(もしくは悪影響を与えているのか)を見える化する」という外的トリガーによってユーザはSDGsサービスを利用するきっかけとなるのです。

次の「Action」にあたるのが、「社会へより貢献するための行動を提示し、取り組んでもらうこと」です。自身の貢献度を把握した後に、次にユーザが知りたいことは自身のどのような行動が社会に貢献もしくは悪影響を与えてきたのかを知ること、社会により貢献する・悪影響を与えないためにはどのようなことをするべきなのかということです。「SDGsのために何に取り組んだら良いのか分からない」という課題を解決するために、ユーザが日常的に取り組めることを示し、そしてその取り組みによってどれほど社会へ貢献できるのかを示すことが、ユーザの取り組み意欲をより引き出します。例えば「キャッシュレス決済をすることで、将来的に紙幣を減らし、CO2削減に繋がる」など、簡単に取り組めて、かつ自分の貢献度を実感できるサイクルを提供する事で、サービスの利用を習慣化するのです。

その結果得られる「Variable Reward」は、サービスを継続して使い込んでもらうために重要となります。SDGsの意識をこれから高めていく日本において、「100%社会のために取り組む」という強い意思を持った「Inovator」の人は決して多くありません。やはり現状では何かしら自分の利益となることが日常的にSDGsに取り組むモチベーションとなることは捉えておくべきです。しかし、ユーザ自身の利益とは実利的なものとして考える必要はありません。たしかに現金や景品に還元できるポイントを付与されることや、結果的に節電・節約につながることも魅力的ですが、SDGsに関する学びを得られることや、SDGsに取り組むコミュニティに参加できることも十分な利益となり得ます。重要なことは自社サービスのユーザとなる人を理解し、その人たちがSDGsに取り組み続けたいと思えるような報酬を提供することです。例えば自社のターゲットユーザが健康にも興味が高いようなら、自然公園の中で行う有名インストラクターによるヨガイベントへの参加権を付与するなども考えられるのではないでしょうか。

そして続く「Investment」はSDGsに取り組むにあたって一番重要になると考えています。SDGsとは個々で取り組むものではなく、友人や知人、地域、企業、国、世界で取り組んで初めて達成できるのです。つまり、提供するサービスはユーザが個人として取り組むことに収束するのではなく、ユーザ同士がつながり、サービス外でもみんなで取り組むきっかけとなる必要があるのです。そのために、自分の取り組みやその結果得た報酬(実利に限らない)を他の人とシェアするという要素を「Investment」として取り組むべきではないでしょうか。そしてシェアしてもらうことで、他の人に自分の取り組みを知ってもらいたい・他の人と一緒に取り組みたいなどの内的トリガーを生み出し、回りの人を巻き込むという外的トリガーに繋がります。

上記のように、自身の社会貢献度を見える化する「Trigger」から始まり、日常的に取り組んでもらう「Action」を促し、継続して取り組んでもらうための「Variable Reward」を実利ではない形で提供し、他の人を巻き込んでもらう「Investment」の仕組みを作ることがSDGsサービスにおいて重要なのです。そうしてユーザはサービスを利用し続け、SDGsに「ひとりで取り組む」から「みんなで取り組む」体験を得られ、企業はこのような体験を提供してこそ本質的なSDGsサービスを提供できるのです。

SDGsサービス例

上記のポイントを抑えたサービスとして参考になるのがLOYALITY MARKETING,Incが提供している「Green Ponta Action」アプリであり、各メディアにも掲載されています。このアプリでは「自分の社会貢献度をスコアとして見える化できること」をTriggerとし、さらにスコアに応じて地球に緑が増えていくような表現がアプリ内でされており、直感的に貢献していることを実感できます。そして「スコアを上げる(より社会に貢献する)ための行動」であるActionが提供されます。そのActionは気軽に取り組めるように「その行動をすることを宣言する」という基準で判定されます。また、「SDGsについて知れる機能」や、「スコアが上がるにつれてプレゼント抽選の当選確率が上がる」といったRewardも付与されます。そして何より大きな特徴として、「他のユーザと一緒に取り組める」というInvestmentが設定されています。特定の地域の環境を守るために他の人と一緒に取り組むことで、「SDGsはみんなで取り組むもの」という意識が自然ととついてくるのです。

「Green Ponta Action」アプリ内スクリーンショット
「Green Ponta Action」アプリ内スクリーンショット

おわりに

SGDsサービスを提供するにあたっても、単に「環境に良いことしましょう!」と伝えるだけではユーザは具体的な行動を取ることができません。ユーザにとって取り組みたいと思えるTrigger、そして実際に取り組むAction、取り組みの結果得られるReward、さらに利用したいと思えるようなInvestment、そして再び新たなTriggerへ続くストーリーにユーザを乗せる必要があるのです。「環境利益・社会利益はCSR活動で。」そんなことはもう言っていられなくなりました。表層的な社会貢献も生活者にすぐに見抜かれてしまいます。SNSなどでつながっている時代だからこそ、その仕組みをうまく活用して他の人と一緒に取り組めるSDGsサービスづくりを検討していくことが良いのではないでしょうか。

出典・参考URL

出典1:国連開発計画(UNDP),「持続可能な開発目標」
https://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sustainable-development-goals.html
出典2:坂野俊哉,磯貝友紀,「SXの時代」,第一版第三刷,日経BP,2021年5月28日,P.17~21
出典3:株式会社電通「電通、第4回「SDGsに関する生活者調査」を実施」
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0426-010367.html
出典4:株式会社ネオマーケティング「全国20歳~69歳の男女1000人に聞いた「SDGs個人での取り組みに関する調査」」
https://www.neo-m.jp/collaborative-research/2627/
画像引用:

  • 「Green Ponta Action」アプリ内スクリーンショット
有川昂佑

有川昂佑

CX/UXデザイン事業部

自動車メーカー・製薬会社・携帯キャリアなど多種多様な業界のCX・UX設計支援に従事。サービスデザインのためのリサーチや、顧客体験設計から画面UIへの落とし込みまで行っている。

※所属は記事公開当時のものです。

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